遠くにいる親を見守りたいという人に、テクノロジーはどう役立つのだろうか? 最新テクノロジー普及の国家戦略を担うiU(情報経営イノベーション専門職大学)学長の中村伊知哉氏と、介護予防ロボットを開発する女優でタレントのいとうまい子氏が、ポストコロナの時代を生き抜く鍵について語り合った。

※日経トレンディ2020年9月号の記事を再構成

iU(情報経営イノベーション専門職大学)学長 中村 伊知哉氏
京都大学経済学部卒、慶應義塾大学で博士号取得。1998年にMITメディアラボ客員教授、2006年に慶應義塾大学教授などを歴任し、20年4月よりiU学長。内閣府知的財産戦略本部などの委員を務める
女優・タレント いとう まい子氏
1980年代にアイドルとして活躍。2010年に早稲田大学人間科学部に入学し、予防医学とロボット工学を学ぶ。現在は同大学院に進学し、博士課程に在学中

――コロナ禍での高齢化問題。私たちはどう向き合っていけばよいでしょうか。

中村 伊知哉(以下、中村氏) 高齢化と聞くと暗いイメージがありますよね。僕はこれからシニアの世代に向かいますが、実は“じじいの時代”が来たと喜んでいます!

いとうまい子(以下、いとう氏) いや、そんなにじじではないですよね(笑)。 でも、じじいの時代とはどういう意味ですか?

中村氏 そのままの意味で、じじいが活躍する時代です。これまでテレワークや遠隔授業など生活の中でテクノロジーを活用する必要性が叫ばれていたものの、ほとんど浸透していませんでした。それが新型コロナの影響でいや応なく加速し、ようやくITを使った超スマートテクノロジーの波が一斉に来ました。これにシニアは乗るべきで、AI(人工知能)やロボット、すべてのものがインターネットとつながるIoT、AR(拡張現実)などをどんどん取り入れるときです! AIやロボットでパワーアップした頭と体と、若い人が持っていない経験が合わされば、お年寄りが“スーパーヒューマン”になれると思っているんです。

いとう氏 働き手として高齢者は不利といわれていますが、むしろ経験がある方が有利だと。

中村氏 そうです。これまでのITやデジタルというのは他人とのコミュニケーションの道具でしたが、最新テクノロジーは自分を拡張します。AIは自分の脳を拡張、ロボティクスは体の拡張と捉え、頭と体をパワーアップするのです。遠方とコミュニケーションできるIoTと組み合わせれば、シニア世代が一番恩恵を受けるのではないかと思います。

いとう氏 世界中がつらい状況に立たされているから、同じように前を向けるタイミングですよね。研究の足並みもそろいそうです。

中村氏 全世界でこれほどみんな大変という出来事は、人類史上ないですよ。ポストコロナの時代を救う鍵は、やっぱりテクノロジーだと思うんです。既に新しいものが次々と登場しているので、これを使ってどうしようかと考えるときです。

――例えば移動はどうでしょうか。高齢ドライバーの事故が増えていますが、改善の余地はありますか?

中村氏 シニアは運動能力が落ちて足腰も弱ってきますし、認知機能も弱い。運転が危ないなら、買い物に行く方法や、行動範囲を広げる方法を考えねばなりません。これからはテクノロジーが移動や行動をいかにサポートするかが、大きなテーマになるでしょう。個人的に期待しているのは、車椅子のようなパーソナルモビリティー。様々な機種から自分好みのものを選べ、今は規制のかかる公道を走れるようになってほしいのです。現在、東京・竹芝地区に先端技術を用いた街「スマートシティー」をつくる計画を進めています。おのおのがデザインした乗り物を走らせるようにしたいと考え、規制緩和を求めて奔走しています。

ドローンタクシーも可能!?

いとう氏 今までの車はスピード重視でしたけど、これからの時代は移動する必要が減ります。会いたい人とはネットでつながれますし。逆に、スピードを気にせず、コンパクトなモビリティーで旅行に行くのも楽しそうですね。いずれにせよ、高齢者が安全に乗れて、事故を減らすことが大切ですが。

中村氏 安全性は研究者も考えています。竹芝で東京大学とメルカリが共同開発しているのが、膨らませる車「poimo(ポイモ)」です。ビニール生地で作られた本体を空気入れでポンと膨らませると、それが車体になり、その下に電動の車が付きます。木馬のようにまたがって移動するんです。車体が柔らかいので安全性が高く、まさに逆転の発想から生まれました。

いとう氏 もう完成しているんですか?

中村氏 テクノロジーとしてはできていますが、導入のルールづくりに時間がかかっています。他にも、羽田と竹芝間に“ドローンタクシー”を飛ばす計画も実用化に向けて動き出しています。ドローンにランチをデリバリーさせるところからスタートし、いずれは人を運ぶことを想定しています。

――健康に過ごせる期間を少しでも延ばすため、大切にしたいのが病気を予防するテクノロジーです。予防医学を研究するいとうさんならどのように生かしますか。

いとう氏 高齢者の筋力は、毎日徐々に衰えていくので、テクノロジーを生かして、コツコツと健康づくりが続けられる仕組みを取り入れるべきです。生活になじませ、自然と溶け込ませるような研究は進んでいますか?

中村氏 頭と体の両面から考える必要がありますね。健康でいられるための情報を、どれだけ的確にシニアも得られるようにするか、が重要です。コロナ禍で、マスクやトイレットペーパーが足りないといって店頭に並んだシニアの中には、ワイドショーで一方的に情報を浴びたという人も多いでしょう。そういった世代と、ネットで情報を取りに行く世代では見えている世界が違います。そうした情報格差を無くす方法を考えているところです。

 体の面では、テクノロジーの力を生かしてスポーツを楽しむ「超人スポーツ協会」のメンバーが、身に着ける様々なデバイスを開発しています。「HADO」という種目では、頭にヘッドマウントディスプレー、腕にセンサーを付けて戦います。現実世界で手を動かすと、ディスプレーを通した世界では必殺技が出ます。それで得点を競います。

3対3で行う超人スポーツの1種「HADO」のプレーイメージ図。拡張現実の技術と体の動きを組み合わせ、バトルを繰り広げる(写真提供/超人スポーツ協会)
3対3で行う超人スポーツの1種「HADO」のプレーイメージ図。拡張現実の技術と体の動きを組み合わせ、バトルを繰り広げる(写真提供/超人スポーツ協会)
超人スポーツ協会のメンバーが開発する、手首の曲げ伸ばしや回転をサポートするアームスーツ。脳からの「曲げたい」という信号をセンサーが感知し、スーツの助けを借りて曲げる感覚をつかむ(写真提供/広島大学栗田雄一研究室)
超人スポーツ協会のメンバーが開発する、手首の曲げ伸ばしや回転をサポートするアームスーツ。脳からの「曲げたい」という信号をセンサーが感知し、スーツの助けを借りて曲げる感覚をつかむ(写真提供/広島大学栗田雄一研究室)
超人スポーツのレース「スライドリフト」で使用する車椅子。アシストモーターを用いてドリフトするなど、走行のテクニックで競い合う(写真提供/Axereal)
超人スポーツのレース「スライドリフト」で使用する車椅子。アシストモーターを用いてドリフトするなど、走行のテクニックで競い合う(写真提供/Axereal)
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