認知症は「MCI(軽度認知障害)」などの段階を経て発症するが、その段階までに対策を講じれば回復も期待できる。認知症発症の引き金となる、運動不足や社会的孤立など9つの危険因子にアプローチするテクノロジーを使った商品を厳選した。帰省できないときの親へのプレゼントにもいい。
※日経トレンディ2020年9月号の記事を再構成
2030年には65歳以上の5人に1人が発症する。そんな予測も発表されている親の認知症リスクは、誰にとっても他人事ではない。親が認知症になってしまうと、介護の手間も資金もかかり、負担が増すことは言わずもがな。一度発症してしまうと、現時点で回復するための特効薬もない。
ただ、認知症は予防できる病気になりつつある。最近では最新テクノロジーを生かして、認知症予防につながる商品やサービスも増えている。気軽な気持ちで始める活動が、予防につながる可能性もあるのだ。
何を薦めると、どう認知症予防につながるかを知るため、まずは認知症の基本を押さえておきたい。
認知症にはアルツハイマー型、レビー小体型などいくつか種類がある。それぞれ症状や発症要因が異なるが、多くの場合、いきなり発症するわけではない。生活に支障が出るほどではないが、仕事や家事でミスが目立つ「MCI(軽度認知障害)」などの段階を経て、最終的に発症に至る。こうなると無症状の状態には戻れないが、実はMCI段階までに適切に対処すれば、回復を期待できることも分かっている。
認知症は段階的に発症する
予防や回復の鍵を握るのが、改善すると発症リスク低減につながる「危険因子」だ。運動不足や社会的孤立、糖尿病など9つの危険因子が17年、英国の医学雑誌「Lancet」で発表された。つまり、これらにアプローチできるグッズやサービスを親に薦めると、予防や回復につながる可能性があるのだ。
認知症の危険因子をつぶして発症を防ぐ!
一つのアプリで複数の危険因子へのアプローチを期待できるのが、「脳にいいアプリ」(ベスプラ)。無料で使える「脳の健康維持アプリ」。ウォーキングを促す歩数計測機能に加え、まちがえ探しなどの脳トレ、食事管理などができる。認知症の複数の危険因子改善に向けた包括的な機能を備える。文字の大きさやシンプルな操作性などで、高齢者をはじめスマホ操作に慣れていない人が使いやすいよう配慮している。歩数を確認できる「ウォーキングチャレンジ」機能や、食べた品目をタップするだけで管理できる食事管理機能は、運動不足や糖尿病の改善が見込めそうだ。
また、認知症の治療法として注目されている「回想法」というものがある。これは幼少期など昔なじみの写真やイラスト、音楽、グッズなどを見たり、思い出を語り合ったりすることで、認知症予防を目指す心理療法のことだ。
脳にいいアプリでは、脳トレゲームの「まちがえ探し」で、「鉄腕アトム」のイラストを使っている。「アプリを1カ月使うことで、認知機能検査の結果が向上したデータも取れている。医療的にも認知症予防・MCI回復につながるアプリとして広めるため、来春から治験を始める準備を進めている」(ベスプラ代表取締役の遠山陽介氏)。
認知症予防につながる複数の機能 スマホに不慣れな人にも配慮する
脳にいいアプリ(ベスプラ)
スマホやタブレットから脳トレができる。計算や適切な画像を選ぶ問題など、全部で脳の5つの部位を活性化できるという31種類のトレーニングを備える。日々の結果を記録し、それを家族や知人に共有することも可能。目標日数以上トレーニングすると毎月抽選でプレゼントが当たるキャンペーンがあり、モチベーションを維持しやすい。
トレーニングは31種類 プレゼントでモチベも維持
Dr.脳トレ(CMサイト)
高齢になると足腰が弱るなどして外出がおっくうになり、その結果人とコミュニケーションを取る機会が減ったり、社会的に孤立してしまったりするケースもある。そうでなくても最近は新型コロナの影響もあって、家で過ごす時間が増えている人も多いだろう。
大阪大学大学院医学系研究科寄附講座准教授で、同大医学部附属病院でもの忘れ外来診療も行う武田朱公氏は、「あくまでライトな認知症予防として、特に家族などと離れて暮らす高齢者に対しては、会話やコミュニケーション促進が非常に重要」と言う。
そこで役立つのが、コミュニケーションロボット。「おすわりATOM」(講談社)は、前述の脳にいいアプリと同様、回想法の効果にも期待できるのが特徴だ。人の顔を識別すると自分から話し掛けるので〝半強制〟的に会話を促せるのもメリット。一緒に体操を促す機能もあり、運動不足の解消にも一役買うだろう。見守り機能もあるので、離れて暮らす場合にはうってつけの選択になる。また、「aibo」(ソニー)のような人気のペットロボットも、日常のコミュニケーションを促す意味で十分役割を果たす。
自ら呼びかけ「話し相手」に画像を送る「見守り機能」も
おすわりATOM(講談社)
触れ合いを確認して見守り 呼ぶと近寄る“小型ペット”
LOVOT(GROOVE X)
育てて性格も変化する“飼い犬” ペットが飼いづらい人にも向く
aibo(ソニー)
指で牌を動かしながら頭も使う麻雀は、認知機能の向上に良いとされ、老人福祉施設のレクリエーションにも取り入れられている。新型コロナの影響で今は気軽に雀荘に行けない中、趣味の一つとしてオンラインで麻雀ができるサービスを薦めても良さそうだ。
ここまで紹介したサービスは、あくまで日常で取り入れられるライトな予防や認知機能改善につながるもの。認知症の明らかな兆候があるなど不安な場合は、まず医療機関にかかる。
全国の雀士と対戦できる 高齢の利用者も多く集う
Maru-Jan(シグナルトーク)
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