親の健康寿命を延ばすための鍵となるのが、安全な住まいだ。つまづきの可能性のある家では、転倒の末寝たきりになってしまうリスクが高まる。また寒暖差のある家も、ヒートショックから心疾患などを起こすリスクがある。簡単に商品を追加するだけで安全な住まいを作るアイデアとは。

※日経トレンディ2020年9月号の記事を再構成

住み慣れた実家に危険な場所が潜んでいる
住み慣れた実家に危険な場所が潜んでいる

 遠く離れたところに住みながら、親の安全を確保するにはどうすべきか。一級建築士で住宅リフォームコンサルタントの尾間紫氏は「健康に暮らせる環境を整えてあげることこそ、親が長生きできる秘訣だ」と語る。「外出されるより家にいてくれる方が安心」と考えがちだが、2019年の国土交通省「高齢者の健康で快適な暮らしのための住まいの改修ガイドラインの概要」によれば、65歳以上の高齢者の不慮の事故による死因は、家庭内事故の件数が交通事故の約4倍に上る。危険箇所をピンポイントでチェックしておくことがまず重要だ。

要介護や寝たきりにつながるリスクが家の中にたくさんある
要介護や寝たきりにつながるリスクが家の中にたくさんある

 「要介護や寝たきり状態など重症化する恐れがあるため、転倒には特に気を付けたい」(尾間氏)。原因には段差や床に散らばったものにつまずくことなどが挙げられるが、「トイレのペーパーホルダーも要注意だ」(尾間氏)という。ぐらついている場合、単に劣化しているだけでなく、立ち上がる際の支えにされている可能性が高いからだ。

 転倒につながる問題点を把握できたら、次はそれを解消するフェーズに移る。「本格的なリフォームをいきなりしなくても、自分で解決できる方法から試していくと費用面でも安心」(尾間氏)。確実に解消しておきたい室内の段差には、ミニスロープで対処できる。段差に合わせた高さのものを用意し、設置するだけと簡単だ。床がフローリングの場合はスリッパで滑って転んでしまうこともあるが、「滑り止め付きスリッパに交換するだけでも一定の効果はある」(介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子氏)。

滑らないミニスロープ

段差に合わせた高さのものを選び、ずれないようにするのが肝心。写真はダンロップホームプロダクツの「ダンスロープミニ」で、表面が滑りにくいゴム製になっている。予算4000円程度
段差に合わせた高さのものを選び、ずれないようにするのが肝心。写真はダンロップホームプロダクツの「ダンスロープミニ」で、表面が滑りにくいゴム製になっている。予算4000円程度

フローリングでも滑りにくいスリッパ

裏側に滑り止めが付いている。滑り止めワックスをかけるより手軽な転倒対策に。予算2000円程度
裏側に滑り止めが付いている。滑り止めワックスをかけるより手軽な転倒対策に。予算2000円程度

 高齢になると片付けが苦手になる人も多く、床に散らばったものや配線コードが足に引っかかり転倒するリスクが高まる。断捨離の手伝いをすると同時に、配線コードはケーブルボックスにまとめてしまうと便利だ。箱にしまい、端に寄せれば歩くときの邪魔にならない。靴を履くときに座れる椅子も、無理な体勢をとらずに済むため転倒対策になる。立ち上がるときの支えになる手すり付きを選ぶとさらにいい。

ケーブルボックスでコードを整理

足に絡まってしまいがちな配線コードをタップごと収納できる。箱にまとめた後、廊下や部屋の端などに寄せてしまえば、歩く時の邪魔にならない。ネット通販で手軽に買える。予算1500円程度
足に絡まってしまいがちな配線コードをタップごと収納できる。箱にまとめた後、廊下や部屋の端などに寄せてしまえば、歩く時の邪魔にならない。ネット通販で手軽に買える。予算1500円程度

手すりを備える玄関用椅子

外出をよくする親なら玄関用の椅子は欠かせない。手すり付きを選ぶとなおいい。予算3000円程度
外出をよくする親なら玄関用の椅子は欠かせない。手すり付きを選ぶとなおいい。予算3000円程度

 尾間氏、太田氏が共に警鐘を鳴らすのは電球の交換だ。「椅子や踏み台に乗ると、バランスを崩して転落してしまうこともあるため非常に危険」といい、実家に行く機会にLED電球に替えておくとしばらくは心配がいらなくなる。照明は天井だけでなく廊下にも気を配りたい。深夜、トイレに行くときなど、暗いと転倒のリスクが上がる。ただずっとつけっぱなしでは電気代もかさむため、人感センサーライトで人が通るときだけ点灯するものを設置しておくといい。コンセントに差すだけでいいものが安価で販売されている。

交換の手間が減るLED電球

電球交換は台や椅子から転落する可能性があり危険。帰省の際などに長持ちするLED電球に替えておきたい。予算1000円程度
電球交換は台や椅子から転落する可能性があり危険。帰省の際などに長持ちするLED電球に替えておきたい。予算1000円程度

人感センサーライトで深夜も廊下を明るくする

コンセントに差して使うものを選べば充電の手間もかからない。停電時、自動点灯するタイプだとより安心。予算3000円程度
コンセントに差して使うものを選べば充電の手間もかからない。停電時、自動点灯するタイプだとより安心。予算3000円程度

 「転倒リスクに対しあらゆる角度から手を打ったら、次は火の元の確認を行うべき」(太田氏)。キッチンのコンロに安全装置がないと火事を引き起こす可能性もあるため、確実に付けておきたい。「仏壇のろうそくの火で座布団が焦げている家も多い」(太田氏)といい、電気ろうそくも対策に一役買う。

火元の心配をなくす 電気ろうそくで倒れても安心

筒部分に電池を入れる電気ろうそく。炎の形をしている部分を押すことでつけたり消したりできる。予算1500円程度
筒部分に電池を入れる電気ろうそく。炎の形をしている部分を押すことでつけたり消したりできる。予算1500円程度

 ヒートショックや熱中症への対策も欠かせない。急激な温度変化により血圧が変動した結果、心疾患につながることもあるヒートショック。風呂場が特に危険だが、脱衣所にヒーターを設置するだけでも状況を改善できる。室内で熱中症になる原因として考えられるのは、クーラーを嫌って暑くても我慢してしまっているケース。温度計・湿度計付き時計を置いておき、「電話した際に温度や湿度をその都度伝えてもらうようにすれば、状況を把握できるだけでなくコミュニケーションにもつながる」と太田氏は言う。

熱中症に気を付ける 温湿度計付き時計で状況を確認

デジタル表示だとぱっと見て分かりやすい。親と電話などする際に、今の温度、湿度を教えてもらうようにするとベストだ。予算1800円程度
デジタル表示だとぱっと見て分かりやすい。親と電話などする際に、今の温度、湿度を教えてもらうようにするとベストだ。予算1800円程度

 「危険を解消するために自分でできることはどんどんやるべきだが、安全性の面から安易に素人が手を出さない方がいいリフォームもある」(尾間氏)。象徴的なのが、玄関や廊下、トイレ、風呂場などあらゆるところで支えとなる手すりだ。「万が一壊れてしまうようなことがあると、全体重をかけて転ぶことになり非常に危険。壁に下地を作る作業が必要になる場合もあり、プロに任せるのが無難だ」(尾間氏)。

 手すり以外にもプロに手軽に頼めるリフォームとしては、部屋の断熱性を高める内窓や、部屋の湿度を適度に保つというタイル壁の「エコカラットプラス」などがある。どちらもLIXILの「PATTOリフォーム」のプランにあり、数時間から1日で設置が可能だ。サイエンスの「ミラバス」は湯船につかるだけでマイクロバブルが体の汚れを落とすというバスタブ。工事は3~4時間で終わり、取り付け完了直後から使える。値は張るが入浴の手助けとなるため、検討の余地はありそうだ。

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