日本のスマートフォン決済市場で大きなシェアを占めるPayPayが、2021年10月から全加盟店に決済手数料を課す予定だ。これまでの先行投資を回収し、数年後には単年黒字化を目指す。決済手数料の発生で加盟店離れの懸念もあるなか、PayPayはどのようなアプリ戦略で規模を拡大して、収益化に道筋を付けようとしているのか。
集客メリットが勝る状況を作り上げる
PayPay(東京・千代田)は2021年10月から、毎回の決済時に全加盟店から決済手数料を徴収する予定だ(具体的な金額などは未発表)。サービス開始から3年がたったタイミングで、本格的な収益化を進めていく。PayPay広報担当の桑原迪氏は「現在は規模から質へ変わっていく転換期だ。今後、事業として収益化していくために、改めてどのようなアプリにすべきか考えていかなければならない」と話す。
収益化のためには、多くのユーザーにPayPayで決済してもらう必要がある。そのためにはより幅広く、多くの加盟店を抱えていることが大前提となる。これまでPayPayは、基本的に初期費用や決済手数料、入金費用を無料にすることで、316万店舗以上の加盟店を獲得してきた。しかし今後、決済手数料が有料化されると、加盟店の解約が増える恐れがある。
「(手数料を)かけるタイミングは、3年前のサービス開始のときから決めていた」と桑原氏が語るように、PayPayは長期的なビジョンでビジネスを進めてきた。決済手数料の有料化による加盟店の解約を抑える施策も、検討しているという。
サービス開始から3年間、PayPayは加盟店を増やす一方で、ユーザー数も増やしてきた。18年12月の「100億円あげちゃうキャンペーン」や、21年3月のヤフーLINE経営統合を記念した「超PayPay祭」といった、ユーザーがお得を実感できる施策を展開。その結果、21年5月末現在の登録ユーザー数は3900万人以上に達する。
決済手数料を取る時期までにより多くのユーザーを獲得すれば、加盟店もPayPayをやめれば集客に影響が出ると考え、解約しづらくなる。だからこそPayPayはキャンペーンなどでユーザー獲得に注力してきた。また加盟店向けにも、ユーザーに対して店舗独自の情報を配信できる「PayPayマイストア」や、加盟店の目的に合わせて独自に発行しPayPay上で配信可能な「PayPayクーポン」といったサービスも提供している。加盟店にとって決済手数料を支払うことによる減収よりも、集客力のメリットのほうが大きいと加盟店に思わせる状況を作り上げてきたのだ。
3900万人超もの登録ユーザーを獲得したのは、もちろん先行投資による大型キャンペーンの効果が大きい。しかし特筆すべき点は、今なおユーザー数を伸ばし続けているPayPayのアプリ戦略だ。現金決済が主流の日本で、ここまで短期間でPayPayがユーザーに浸透したのは、加盟店の多さやお得さだけではない。アプリだからこそ実現できる機能や訴求方法で、新規ユーザーを獲得し、既存ユーザーを維持しているからだ。
「ないと不便」な状況を作り出す
PayPayが現在も会員数を増やし続けているのは、新規ユーザーに「PayPayがないと困る」と思わせるアプローチを強化しているからだ。
PayPayのアプリはユーザー同士で共有して使う際に、より利便性を感じられる機能を備えている。例えばユーザー同士で残高の送付や受け取りができたり、メッセージのやり取りを行えたりする機能だ。アプリで残高の送付や受け取りができれば、直接会って現金をやり取りする必要もないし、銀行へ行く手間も省ける。また1円単位から送金手数料も無料で送付できる。
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