マーケティング分野で活躍する仕事人10人がお薦めの本を紹介する本企画。今回はネスレ日本専務執行役員の石橋昌文氏と、トランジットジェネラルオフィス社長の中村貞裕氏が3冊を厳選した。「賢者は歴史に学ぶ」故か、過去の戦いや失敗の真相をたどりながら、生きていくことの意味を考えさせられる書物が並んだ。

【この記事で紹介する書籍】
『輝ける闇 改版』(新潮文庫)
『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』(中公文庫)
『小説十八史略』(講談社文庫・全6巻)
『三国志』(新潮文庫・全10巻)
『憂鬱じゃなければ仕事じゃない』(講談社+α文庫)
『サヨナライツカ』(幻冬舎文庫)

前回(第5回)はこちら

石橋昌文氏、お薦めの3冊


ネスレ日本 専務執行役員 チーフ・マーケティング・オフィサー マーケティング&コミュニケーションズ本部長
1985年、神戸大学経済学部卒業、ネスレ日本に入社。営業本部、ネスレUK、ネスレマッキントッシュ(現コンフェクショナリー事業本部)、ネスレスイス本社での勤務を経て、05年に同マーケティング統括部長。09年にネスレ日本 常務執行役員 コミュニケーションズ&マーケティングエクセレンス本部長、12年チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)に就任。17年より同社、専務執行役員
詳しいプロフィル


日本の戦後文学の最高峰

『輝ける闇 改版』
開高 健/新潮文庫、2010年
649円(税込み)

 本好きの自分が一番お薦めしたい本。3部作の2冊目『夏の闇』と並び、日本の戦後文学の最高峰だと思う(3冊目の『花終わる闇』は未完)。

 著者のベトナムでの従軍記者としての経験と自身の戦争体験を織り交ぜながら、主人公と戦争への関わり方を通して、生と死を見つめる。「生=食と色」「死=飢餓と戦争という暴力」を、米国軍兵士、南ベトナム軍兵士、日本の駐在員、現地の様々な人々との交流を著者独特の冗舌な語り口で読者を引き込みながら、描き切った力強い作品。50年の時を経ても「変われば変わるほどますます同じ」という、著者のよく使う表現としての普遍性を持つ。

 著者独特の豊潤で選び抜かれた言葉の文章表現と構成には、何度読み返しても一気に読み通させる魅力がある。ベトナムにはこの20年で3回訪問したが、この作品で描かれた場所を含め、著者の体験に思いを寄せることが度々あった。

目的が明確では無い作戦戦略は失敗する

『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』
戸部良一、寺本義也、 鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎/中公文庫、1991年
838円(税込み)

 入社2~3年目に会社の先輩から薦められて読んだ本。「目的が明確では無い作戦戦略は失敗する」というシンプルな原理原則を学んだ。

 当時の日本の最高の頭脳を集めた陸軍参謀本部、海軍軍令部、そして現場の指揮者たちが、なぜこのシンプルな原理原則を生かせなかったのか。日本軍の主要な失敗事例をひもといて、歴史(戦史)と組織論を組み合わせたユニークな著書であり、防衛大学校の研究者と日本を代表する経営学者の野中郁次郎先生の共同研究で生まれた、ビジネスパーソン必読の書といえる。

 今の日本の政治を見ても目的が曖昧で、透明性の無い政策の実行を日々目にする度、何も変わらないのだなという思いがよぎる。日々の仕事の中でも、目的が曖昧な提案や目的と手段が逆転した提案が上がってくることが、残念ながら多々有る。常に目的を明確にし、その目的を達成するためにベストであると思われる方法は何なのかを常に問いかけることがビジネスの基本中の基本。そのことを理解するのにもってこいの本である。

歴史の面白さを再認識させてくれた本

『小説十八史略』(全6巻)
陳舜臣/講談社文庫、1992年
902~1100円(税込み)

 歴史の面白さを再認識させてくれた本。

 「小説」と銘打っているように、「十八史略」という神話の時代から南宋に至るまでの十八の史書をまとめた通史をベースに、著者の中国史に関しての豊富な知識と人間洞察を加え、「小説」としてまとめられている。王国(帝国)の勃興と腐敗、内乱、飢饉(ききん)、異民族の侵入等による王朝の崩壊から新王朝の勃興という繰り返される歴史の中で展開する人間模様が、著者の独自な視点で描かれており、読み始めると時を忘れ、没頭してしまう。

 善も悪も振れ幅が大きく、時にはへきえきとすることもあるが、スケールが大きく魅力的な中国史。日本人の感覚からすると戦国時代が何度も何度も繰り返される感じで、あの大きな国をまとめていくのがいかに大事業なのかを考えさせられた。「歴史は繰り返す」のか「歴史は繰り返さないが韻を踏むのか」――。いずれにしても歴史から学ぶことは楽しくかつ生きていくうえでのサポートになると考える。

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