
ビデオリサーチ(東京・千代田)が24年ぶりに視聴率を大幅刷新した。これまで大都市でしか取得していなかったデータを全国に拡大し、個人視聴率の提供を開始した。個人=ユニークブラウザーを対象にデータを集めるデジタルマーケティングにならった格好だ。電通も個人基点のテレビ活用サービスを展開し始めた。
<前回(第7回)はこちら>「時間に猶予は残されていなかった。従来のように中心都市から徐々にデータを整備するのではなく、全国で一気にそろえなければ、広告費はどんどんデジタルに流れてしまう」
ビデオリサーチ執行役員の橋本和彦テレビ事業局長は、そんな強い危機感を抱きながら、個人視聴率の整備を主導した。ビデオリサーチにとって、実に24年振りの視聴率の大型刷新だった。刷新における最大の変更点は世帯視聴率だけでなく、全国で個人視聴率の提供を始めたことだ。
視聴率は、ビデオリサーチが無作為に選んだ世帯に設置した機械などで取得している。従来は調査対象世帯の1人でもテレビを視聴していれば、世帯視聴としてカウントしていた。100世帯のうち50世帯がテレビをつけていれば、視聴率50%という換算になる。居間で一家団らんで過ごすひと昔前なら、それで十分だったかもしれない。
しかし、この十数年でテレビの視聴環境は大きく変わった。個人が所有するスクリーン、すなわちスマートフォンが急速に普及したからだ。家族全員が1つのスクリーンを同時に見る機会は大幅に減少した。たとえ世帯視聴率が高くても、広告主のマーケティング対象がテレビを視聴していなければ、テレビCMを出稿する意味は薄い。
さらに、スマホの普及に足並みをそろえるように、デジタルマーケティングが広告主に浸透した。デジタルマーケティングの世界では、広告識別子やブラウザー単位でデータを取得する。個人情報とはひも付いていないが、事実上は個人単位でデータを収集してマーケティングに活用している。だから、豊富なデータを保有する米フェイスブックや米グーグルといった大手広告プラットフォーマーは、広告主のターゲット層へ的確に広告を配信できる。
消費者の変化と新しいマーケティング手法の台頭によって、世帯単位だった従来のテレビ指標は時代と合わなくなり、個人視聴率の需要が高まった。「かなり前から広告主からは個人視聴率をベースにすべきだと言われ続けてきた」と橋本氏は振り返る。
テレビCMの取引指標は数十年にわたり、世帯視聴率を軸としたGRP(延べ視聴率)が使われてきた。個人視聴率の提供は、この取引指標が大きく変わることを意味する。テレビCMに関わるすべての関係者に理解をしてもらう必要があったという。それゆえ構想から実現まで5年を費やした。視聴率の刷新はテレビ業界にとってそれほど大きな変革なのだ。
具体的にどう変化したのか。まず、視聴率の取得方法の統一だ。従来は2つの方法で取得していた。1つは「ピープルメータ(PM)」と呼ぶ機械を、無作為に選んだ調査世帯に設置する方法。ビデオリサーチは事前に世帯の家族構成に合わせて、ピープルメータを設定する。調査対象者は視聴の開始時と終了時に、世帯の住民ごとに割り当てられた機械のボタンを押す。これにより個人の視聴率を取得する。機械を利用するため、データの精度は高いが、従来は関東、関西、名古屋、北部九州の4地区でしか取得していなかった。
もう1つは日記式アンケートによる取得だ。視聴者が調査票に日記形式で5分刻みでテレビの視聴を記録し、調査員が調査票を基にデータをPCに入力する。人の手で記載しているため、PMに比べれば精度は落ちる。さらに集計後、データ提供まで1カ月かかっていた。
全国で毎日視聴データを取得
新視聴率では全国32地区をPMによるデータ取得に切り替えた。さらに世帯数も大幅に増加。関東地区が従来の3倍の2700世帯、関西地区は同2倍の1200世帯、札幌地区は同2倍の400世帯に増やした。日記式アンケートでは毎月特定の2週間のみデータを取得していたが、PMに切り替わることで取得頻度が毎日に変わった。全国のデータを翌日に提供する。「全国で約1万世帯、人数にして2万3000~4万人の個人視聴データを持てるようになった」(橋本氏)。
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