テレビCMの未来

ビデオリサーチ(東京・千代田)は2020年3月、24年ぶりに視聴率を大幅刷新し、全国で個人視聴率の提供を始めた。広告主はどう受け止め、どのようにマーケティングに活用できると考えているのか。日本アドバタイザーズ協会常務理事で電波委員長を務める、資生堂ジャパンメディア統括部エグゼクティブマネージャーの小出誠氏に聞いた。

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小出 誠 氏
日本アドバタイザーズ協会 常務理事
1984年に資生堂入社。販売会社、営業、商品開発部、宣伝部などを担当、プロフェッショナル事業部、経営企画部 本社ビル建て替えとグローバル総本店新設を含む「銀座再開発プロジェクト」と企業サイトの運営を担当を経て、2014年4月よりコミュニケーション統括部長。15年10月より資生堂ジャパンコミュニケーション統括部長。18年1月より同メディア統括部長。(組織改編に伴う名称変更)。19年1月より同メディア統括部エグゼクティブマネージャー、日本アドバタイザーズ協会常務理事

広告主はテレビCMに対してどのような課題を感じていますか。

広告主は商品やサービスの多くでターゲットを定めてマーケティングをしています。ところが、テレビではターゲットに合わせてテレビCMを放送しようとしても、F1(20歳~34歳の女性)、M1(20歳~34歳の男性)といったざっくりとした年代でしか放送できません。例えば、飲酒をする人なのか、自動車を所有しているのか、そういうデータがない中で枠を買わなければいけない。それがずっと続いてきました。

 そこにデジタルマーケティングが登場し、テレビを超えるターゲティングをできるようになった。結果、広告主がテレビのデータの少なさに不満を持つことは当たり前の流れでした。

どのようなデータが整備されることを望んでいますか。

今、テレビ局に求めているデータは大きく2つあります。1つ目はテレビCMの効果をデータで示していただきたい。例えば、購買につながるとか、メッセージの効率性がいいとか、テレビCM効果が高い広告であると認識できるデータが必要です。

 広告主の中では、社内でテレビを使うことに対して逆風が吹いています。なぜ、テレビCMを放送するのか。そう問われたときに、宣伝部はテレビCMを使うことがマーケティング上で肌感で必要だと思っていても論理的に反論できず、肩身が狭いという状況が増えています。テレビ局には効果を証明できるデータの整備を求めています。

 テレビ局は他メディアよりも優れている部分を業界全体でアピールして、広告メディアとしてのテレビCMのブランディングをすべきです。例えば、クリエイティブの差し替えが簡単になっています。日本テレビ放送網のSAS(スマート・アド・セールス)のように枠を指定買いできて、予算が少なくても1本単位で広告枠を買えるようになりました。CM素材の入稿タイミングはオンライン化で短縮されました。読売テレビ放送が中2日で広告素材を入稿できる枠を用意するなど、各社で努力をしています。そういう面で、テレビCMがネットに追いつくように改善している点はポイントです。以前は負荷になっていた部分が変わっていることを伝えていくべきです。

 ただ、もう一段高い危機感を持つべきでしょう。例えば、テレビの考査の問題では、広告主から色々な要望を出していますが、それほど前向きに対応してもらえていません。企業がコラボレーションすることが増えていますが、テレビCMには同じクリエイティブの中で複数の社名や商品を告知することが禁止されているダブルスポンサー問題があります。ダブルスポンサー問題についてはテレビ局の間で今も意見が割れています。それでは、広告主はテレビに対して使いづらいという印象を抱きます。

 もう1つの求めているデータは、テレビCMのプランニングを高度化するものです。テレビCMは予算の規模が大きいため、どのタイミングでどこに出したらターゲット層に対し、リーチを最大化できるかが分かるデータです。個人視聴率はこちらに関係する話だと考えています。

 多くの広告費を投入している企業ほど、地域に絞ったマーケティングをすることが求められてきています。企業はデータを使った精緻なプランニングや、迅速な効果検証をすることで差が出てくるでしょう。テレビCMに50億円をかけている企業なら、10%効率化するだけで5億円の効果向上が見込めます。

 効果測定の面では、個人視聴率と購買がひもづいておらず、まだブラックボックスになっています。今の個人視聴率でそれを把握することは難しい。そのため、現段階ではプランニングに活用することになるでしょう。

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