
トヨタ自動車がテレビCMを活用した新たなブランド広告に取り組んでいる。同社が展開する「トヨタイムズ」は、テレビCMとネットメディアを融合させたオウンドメディアだ。テレビCMで展開するバーチャルな編集部とリアルの編集部が一体となり、トヨタの内部情報を公開している。
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香川照之編集長が世界各地を飛び回り、豊田社長やトヨタ関係者に果敢にインタビューを試みるトヨタイムズシリーズ。Webサイトを開設し、テレビCMの放送を開始してから、約1年半がたった。同企画はこれまでトヨタが手掛けてきたブランド広告の中でも異例の存在だ。
これまでも、当時のトヨタのテレビCM出演者が勢ぞろいした「TOYOTOWN」、タレントのビートたけしを起用し、「FUN TO DRIVE, AGAIN.」をテーマにクルマの楽しさをもう一度創造することを目指した「ReBORN」など、商品CMとは異なる、いわゆるブランド広告をトヨタは数多く展開してきた。いずれのキャンペーンもテレビCMを中心とし、広告としてのメッセージを伝えることが役割だった。
一方、トヨタイムズはWebサイトやYouTubeなど、複数のプラットフォームを連携したオウンドメディアだ。テレビCMすらもオウンドメディアの延長と位置付ける。「テレビで広く認知を取り、Webサイトでより深い情報を伝えていく」とトヨタ自動車トヨタイムズ編集部の北澤重久副編集長は言う。と、ここで北澤氏の肩書に違和感を覚えた読者もいるだろう。トヨタはトヨタイムズの開始に当たり、独自の編集部を社内に設置したのだ。
自社編集部で180本の記事を制作
決して名ばかり編集部ではない。「トヨタイムズのメインコンテンツ『インサイドトヨタ』の記事はほぼ内製。トヨタ社内で執筆し、1年間で180本の記事を掲載した」(北澤氏)と言うからトヨタイムズにかける本気度合いがうかがえる。専任の編集部員である編集長(香川氏はテレビCM上の編集長で、トヨタ社内に実際の編集長がいる)と北澤氏の2人を中心に、4~5人の社員とともにコンテンツを制作している。トヨタの内部情報を公開していくため、コンテンツの制作に当たっては豊田社長とも密にやり取りをしているという。
そもそもトヨタイムズは豊田社長の発案によるものだ。豊田社長ともなれば、対面での取材だけでなく、イベントに登壇するだけで多くのメディアが駆けつける。しかし、メディアを通じて伝えられる情報はごく一部だ。トヨタが自動車メーカーからモビリティーカンパニーへと変革するなか、NTTやソフトバンクといった異なる業界との連携が増えている。より幅広く、社内外に変革するトヨタと、そこにかける豊田社長の思いを発信する手段を模索していた。
そんな折、豊田社長は中京地区のあるラジオ番組を受け持った。土曜日夜の30分番組で、クルマやリコールに対する考え方など、視聴者の質問に回答していった。決して、視聴者が多いわけではなかったが、社員や取引先から感想が寄せられ、豊田社長がどういう考えで経営をしているかが伝わったという。「そこからヒントを得て、自分の言葉で内外に発信することへの手応えを感じた」(北澤氏)ことから、トヨタイムズの構想が始まった。
そのためにはこれまでのような広告や広報活動では不十分と考えた。つくられた一面だけを見せていては、本当の思いは伝わりにくいからだ。トヨタイムズではこれまでは表に出にくかった株主総会や企業と労働組合の交渉、いわゆる春闘の様子など内部情報をなるべくつまびらかにしている。そういった場でこそ、豊田社長の本心が言葉となって表れるからだ。
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