
ネット広告代理店が相次いでテレビCMの支援サービスを打ち出している。AI(人工知能)の進化による運用型広告の運用の機械化、広告主のニーズの変化、それにともなうネット広告代理店の役割の変化などが理由として挙げられる。ネット広告代理店の参入により、テレビCMの運用市場が生まれ、アプリやEC事業者といった新しい広告主の出稿が増えそうだ。
<前回(第5回)はこちら>大手ネット広告代理店のアイレップ(東京・渋谷)は2020年5月、統合型の広告プランニングやクリエイティブ制作をするプロジェクト「TEAM JAZZ」を発足し、テレビCM最適化支援サービス「科学するテレビCM」の拡販に乗り出した。これに続いたのが電通とVOYAGE GROUPの共同出資会社CARTA HOLDINGSだ。同じく5月、テレビCMの制作、効果検証、最適化を一括で請け負うテレビマーケティングプラットフォーム「PORTO tv」の提供を開始した。電通の持つテレビデータの活用が強みだ。
さらに20年7月には大手ネット広告代理店のオプト(東京・千代田)がラクスルのテレビCM効果最適化サービス「ノバセル」を活用し、テレビCMの運用支援を組み合わせた統合型マーケティング支援を開始した。
なぜネット広告代理店が今、こぞってテレビCM支援に参入するのか。その理由は2つある。1つはテレビCMがデジタルマーケティングに近づくにつれ、アプリやEC事業といったダイレクトマーケティング系企業の間でテレビCMへの関心が高まっていること。そしてもう1つが、AIの台頭による、ネット広告代理店の役割の変化だ。
ネット広告の運用自動化で新事業開拓が急務に
AIに仕事を奪われるーー。それが現実味を帯びつつあるのがネット広告だ。データに基づき広告予算の配分を変えたり、広告クリエイティブを差し替えたりすることから、運用型広告とも呼ばれる。これまでは運用担当者が表計算ソフトのデータを見ながら広告を運用する、極めて労働集約的な事業だった。
AIの進化がこれを大きく変えた。大手広告プラットフォーマーはAIの進化とともに、人の手を介さずとも広告を運用できる仕組みを整えてきた。その代表格が米グーグルだ。グーグルは複数の広告商品を横断的に自動最適化できるように、AIを進化させた。目標を設定するだけで、AIが広告配信を24時間最適化するプログラムを用意している。
「プラットフォームの自動最適技術はこの数年で革新的に進化した。それによって従来の労働集約型の広告運用の価値が下がってきているのは認識している」(オプト上席執行役員の栗本聖也氏)。こうした変化を捉え、ネット広告代理店は新たな事業ポートフォリオを整えるべく改革を急いでいるのだ。
テレビ事業参入への相次ぐ参入はその1つ。データの整備や広告枠の買い付け方法の多様化によって、「テレビCMの買い付け方が徐々にデジタルに近づいている」(栗本氏)。これまで培ったデジタルマーケティングの運用ノウハウを最適化が進んでいないテレビに生かすことで、その強みを発揮できる可能性がある。
テレビのデジタル化が進むことで、ダイレクトマーケティング系の広告主のテレビCM放送ニーズが高まっているという。そういった企業が広告のKPI(重要業績評価指標)に据えるのは、顧客獲得単価やブランド名の指名検索数の上昇率など業績に直結する指標だ。「従来は視聴率が高いところに放送しているだけで広告主は満足していたが、より購買やブランド名での指名検索など、事業の成果に近いKPIでの効果検証を求められるようになっている」(栗本氏)。
ネット広告と同等の厳しい成果指標を求められるとすれば、それに対応できるのもネット広告運用の知見を持つネット広告代理店というわけだ。
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