「生身」から脱却? ロボ接客新時代

AI(人工知能)の頭脳を備え、生身の人間そっくりの容姿を持つ「バーチャルヒューマン」。そんなソフトウエアの人型ロボットが“接客”する時代が目前に迫っている。既に海外では化粧品の販売や医療の現場で活用が進んでいる。日本でも、ECサイトやリアル店舗でまもなく実用段階に入っていく。

米ソウルマシーンズのバーチャルヒューマン「SAM(サム)」。驚くほど精彩でまるで生身の人間のようだ。リアルタイムで対話ができる
米ソウルマシーンズのバーチャルヒューマン「SAM(サム)」。驚くほど精彩でまるで生身の人間のようだ。リアルタイムで対話ができる

 まるで人間のような肌や目、髪の質感。ぱっと見た限りでは、写真といわれても気づかないほどのリアルさを持つバーチャルヒューマンを作り上げたのは、ニュージーランド発のスタートアップ、米ソウルマシーンズだ。技術開発をリードするのは、『キングコング』や『アバター』などのCG映画のキャラクターを手がけ、アカデミー賞を2度受賞した同社CEO(最高経営責任者)のマーク・サーガー博士である。

前回(第3回)はこちら

 ソウルマシーンズは、このバーチャルヒューマンを人間と対話することを目的として開発している。同社のクラウド上に“生息”しており、ネット越しに利用者が呼びかけることでリアルタイムに動き、回答を音声で返す。特筆すべきなのが、人間のように喜怒哀楽の感情を表すことができる点だ。

相手に合わせて喜怒哀楽も表現

 感情は利用するユーザーの表情や声に合わせて変化する。カメラを通して認識されたユーザーの表情をリアルタイムで読み取り、その表情に合わせて自動的に喜んだり、悲しんだりする。実際にバーチャルヒューマンを導入している米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の高級スキンケアブランド「SK-II」のWebサイトを試してみた。バーチャルヒューマンの「YUMI」は、筆者が微笑みかけると、YUMIもニコッと笑顔を見せてくれた。相手がAIだと分かっていても、気持ちが和らぐのが不思議だ。

米国のSK-IIのWebサイトで消費者からのスキンケアの問い合わせに対応しているバーチャルヒューマン「YUMI」。筆者(左上円内)がほほ笑むと、YUMIも笑顔を見せるなど相手に合わせて表情を変える
米国のSK-IIのWebサイトで消費者からのスキンケアの問い合わせに対応しているバーチャルヒューマン「YUMI」。筆者(左上円内)がほほ笑むと、YUMIも笑顔を見せるなど相手に合わせて表情を変える

 そうした感情を示すことを可能にしているのが、ソウルマシーンズ開発の「デジタルブレイン」だ。人間の脳や神経の情報伝達の働きをシミュレーションしており、視覚、聴覚、触覚の3つで制御している。笑顔を返す他にも、視覚で相手が「怒っている」と認知した場合、「困っている」表情をアウトプットする。手をたたいて大きな音を出すと、それがインプットされ「驚いた表情」をアプトプットする。こうしてリアルタイムかつ自律的にレンダリングし、人間らしく振る舞うのだ。

バーチャルヒューマンは人間の脳や神経の情報伝達の働きをシミュレーションしており、視覚、聴覚、触覚で受けた情報に反応する(写真:菊池くらげ)
バーチャルヒューマンは人間の脳や神経の情報伝達の働きをシミュレーションしており、視覚、聴覚、触覚で受けた情報に反応する(写真:菊池くらげ)

 「人間同士のコミュニケーションでは、会話の内容だけでなく、対面する人の表情が重要。当社のバーチャルヒューマンはその表情を自律的に作り出して情緒を表現し、あたかも人間と話しているような体験ができる」と、ソウルマシーンズ副社長で日本の事業責任者を務めるウナ・ソフティッチ氏は話す。

 製品やサービスの問い合わせを受けるためのテキストベースのチャットボットをWebページに設置している企業は多い。単にテキストで情報を伝えるよりも、リアルなバーチャルヒューマンが応対すれば、丁寧でフレンドリーな印象を与えられる。企業やサービスのロイヤルティを高める効果や、SNSなどでの口コミの広がりも期待できそうだ。

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