店舗でのロボット活用に、来店した客を楽しませるエンターテインメント性を付加したり、慢性的な人手不足を解消する手段に活用したりする動きも出てきた。サラダバーの配膳、そばやたこ焼きの調理に活用が広がるロボットたち。先行事例から可能性を探る。

東京・世田谷の「THE GALLEY SEAFOOD & GRILL by MIKASA KAIKAN」が導入した配膳ロボット
東京・世田谷の「THE GALLEY SEAFOOD & GRILL by MIKASA KAIKAN」が導入した配膳ロボット

 フランス料理や中華料理など高級レストランを展開する三笠会館(東京・中央)は2020年7月6日、玉川高島屋S・C(東京・世田谷)に新業態「THE GALLEY SEAFOOD & GRILL by MIKASA KAIKAN」(以下、THE GALLEY)をオープンした。外から見た限りでは一般的なレストランと同じようだが、店に入ると普通の店ではないことが分かる。人間の従業員の代わりに、自走式のロボットがサラダを運んでいるのだ。

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 「15テーブルのお客様、お料理をお持ちしました。お取りください」。トレーからサラダの皿を取り、上部の非接触センサーに手をかざすと、ロボットは自動で戻っていく。各テーブルには注文用のタブレットがあり、ここから野菜を選ぶと、店の中央にある透明な板で遮蔽されたサラダバーで店員が盛り付ける。その皿をロボットが席まで運ぶ。

各テーブルにタブレット端末が設置してあり、サラダバーの野菜やフルーツを選ぶ
各テーブルにタブレット端末が設置してあり、サラダバーの野菜やフルーツを選ぶ

 20年5月下旬。あと1カ月ほどでオープンするはずが、店舗内のサラダバーについては方針がまとまっていなかった。新型コロナウイルス感染症の対策を考えれば、ビュッフェ形式で食事は提供しづらい。「一時期はビュッフェ形式を取りやめようかと考えた」とTHE GALLEYのストアーディレクター小沼智恵氏は振り返る。そんなとき、三笠会館の谷辰哉社長が「配膳ロボットを使うのはどうか」と呼びかけたという。

新たな「食のエンタメ」を提供

 谷社長と小沼氏は18年に、研修として米国の先進的な飲食店を視察したという。ラスベガスでカクテルを作るロボット、サンフランシスコでもコーヒーやハンバーガーを提供するロボットを見た。1947年から東京・銀座で老舗のレストランを展開してきた同社の事業とロボットとは対極にあるようにも感じるが、「かねて食事をするという体験に加えて、新しいエンターテインメント性を提供したいという理念を社長は持っていた」(小沼氏)。「ロボ酒場」などを展開してきたQBIT Robotics(東京・千代田、以下QBIT)と連絡を取り、急きょ導入の準備を進めた。

タブレットで注文してしばらく待つと、内部のトレーにサラダを載せたロボットが届けてくれる
タブレットで注文してしばらく待つと、内部のトレーにサラダを載せたロボットが届けてくれる

 ロボット導入の手応えは感じている。多数のメディアに取り上げられたこともあり、開店後1週間は満席の状態が続いた。「特に子どもに対する絶大なアプローチ力がある。周囲の店に連れて行こうとする大人を尻目に、走って戻ってくる子どもが多い。ロボット効果で来店のダメ押しになっている」(小沼氏)

 店員と顧客とのコミュニケーションが弾むという効果もあった。「タブレットからサラダの野菜を選ぶとロボットが運んでくれるんですよ」と店員が話すと、驚きながらも、面白そうだと好奇心を持つ人が多いという。複雑な操作もなく「年配の方を含め、びっくりするほど、自然に受け入れてもらっている。共生するロボとして成功している」と小沼氏は話す。

店内の中央にあるサラダバー。客の注文に合わせて従業員が野菜を取り分け、皿をロボットに載せる
店内の中央にあるサラダバー。客の注文に合わせて従業員が野菜を取り分け、皿をロボットに載せる

 ロボットは中国キーンオンロボティクス製。既に世界で7000台が稼働している。ラーメンの幸楽苑ホールディングスも、同型のロボットを20年8月下旬から一部店舗で利用する。多数の実績があったこともあり、QBITが急ピッチで準備を進め、THE GALLEYでは約1カ月という短い準備期間で導入できた。店の天井に張り付けた透明なシールを目印に、赤外線センサーで位置を特定しながら秒速1メートルで走行する。周囲に人がいる場合もセンサーで検知し、よけながら移動する。

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