いつ起こるか分からない災害の被害は、日頃の対策によって減らすことができる。ほぼ同じ地区に建っている住宅でも、対策の有無で被害に差が出ることもよくあるのだ。強い住宅にはどんな法則があるのか。台風で割れやすい窓ガラスの強化方法や住宅の点検の仕方、浸水への備え方などを、実例を用いて解説する。

※日経トレンディ2020年8月号の記事を再構成

 2019年10月に上陸した令和元年東日本台風(台風19号)。10月9日に気象庁が「命を守るため、早めの対策を」と呼びかける緊急記者会見を行うと、ホームセンターには防災用品を買い求める人が殺到。飲料水や乾電池、土のう袋、ブルーシートなどが飛ぶように売れた。その中で、想定外に売れたのが養生テープだ。貼った後にきれいに剥がせるのが特徴で、本来は工事や塗装などの現場で使われるテープ。しかしSNSなどで、「窓ガラスに養生テープを『米』の字に貼ると、ガラスの飛散を防げる」という噂が広がると、雨戸が無い窓を保護しようと多くの人が押し寄せた。ホームセンターでは、「全国的に品薄となり、特に関東・南東北、次いで中部地方の店舗で大きく伸長した」(DCMホールディングス)ほどの売れ行きを見せた。

 まず窓の強化を目指すのは正しい。一般に、窓ガラスは壁や屋根よりも弱く、強風で飛んできた物がぶつかって割れることがよくあるからだ。「生活110番」を運営するシェアリングテクノロジーが、19年9月の令和元年房総半島台風(台風15号)の被害を分析したところ、テレビアンテナの被害(49・5%)に次いで窓ガラスの被害(19.5%)が多かった。集合住宅に限れば約8割が窓ガラスの被害だというデータも過去にある。窓が割れると雨で室内がぬれて傷むし、最悪の場合は吹き込んだ強風によって屋根が吹き飛ぶこともある。窓は最大の弱点だ。

住宅で一番弱いのは開口部の「窓」

養生テープの効果は限定的

 養生テープに走った人々の動きは正しかったのか。さくら事務所で住宅診断士を務める田村啓氏は、「テープにガラスを強化する効果はなく、ガラスが割れた際に破片が飛び散らないようにする措置。個人的にはあまり意味がないと思う」との意見だった。

 そこで編集部では、板ガラスにダンベルを衝突させる実験を行った。比較用に、ガラス保護専用の飛散防止フィルムでもテスト。その結果、ガラスに貼った養生テープは破片の飛散をある程度抑えたが、ガラス面には穴が開いてしまった。

実験/厚さ5ミリメートルのガラスをダンベルで割りテスト
500グラムのダンベルを長さ約1メートルの紙の筒を通して板ガラスの中央付近に落とし、破片がどう飛散するかをチェックした。ガラスの厚さは5ミリメートル
500グラムのダンベルを長さ約1メートルの紙の筒を通して板ガラスの中央付近に落とし、破片がどう飛散するかをチェックした。ガラスの厚さは5ミリメートル
板ガラスのみ
板ガラスのみ
板ガラスは原形を留めず、破片は5センチメートルほど遠くまで飛び散った。この実験は、風で小石が窓にぶつかるのに比べて、かなり強い衝撃だといえそうだ
板ガラス+養生テープ
板ガラス+養生テープ
幅50ミリメートルの養生テープを縦横斜めに3枚貼り、テープを貼っていない方からダンベルを落下させた。飛散はある程度防げたが、ガラスには穴が開く

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