ハザードマップは、ただ眺めているだけでは足りない。どんな想定で作られているのか、いざというときの避難のためにどう活用するのかを含めて知る必要がある。また、マップを手に実際に街を歩くというのも防災の大事な準備になる。記者が実際に歩いてみた。
※日経トレンディ2020年8月号の記事を再構成
ハザードマップに決まった形式はなく、種類や内容は作成する自治体によって様々。ただし、どのハザードマップを見る際にも必ず確認すべきなのは、どんな「想定」で作られているかだ。
例えば洪水ハザードマップなら、どこにどの程度の降雨があった場合に、マップ上に示した浸水が予想されるかが重要になる。以前は100年に1回程度の降雨量を想定した「計画規模」で作られたものが大半だったが、近年は1000年に1回程度の降雨量である「想定最大規模」によるマップへの更新が各自治体で進められている。これは、気候変動による降雨量の増加や水害の激甚化の予想を踏まえ、2015年に水防法が改正されたためだ。
下にある横浜市鶴見区の洪水ハザードマップの2例を比べて分かるように、想定する降雨量により浸水予想エリアは異なる。想定最大規模の方がより広く、深く浸水する予想だ。2例の具体的な降雨量としては、想定最大規模が「多摩川は2日間で約588ミリメートル、鶴見川は2日間で約792ミリメートル」を、計画規模が「多摩川は2日間で約457ミリメートル、鶴見川は2日間で約405ミリメートル」を想定する。「こうした数字がマップに大きく明記されていれば、実際の降雨情報と比べてリスクの度合いを判断しやすい」(アウトドア防災ガイドのあんどうりす氏)。
想定の程度によって被害の予想は変わる(横浜市鶴見区の洪水ハザードマップの浸水予想エリアの例)
地震や津波のハザードマップについては、震源やマグニチュードの想定をチェックしておくこと。どの災害も、基本的にはより被害が大きいケースを前提に備えを考えておきたい。また、自治体によってはハザードマップの作成作業が遅れていることもあるので、想定と併せてマップが作成・更新された時期も確認しておくといい。
当然ながら、自治体により抱える災害リスクは違うため、そこで公表されているすべてのマップを見ることも大事。例えば同じ浸水被害でも、洪水と津波とでは予想範囲が異なる。浸水リスクは低いエリアでも、土砂災害の恐れがある場合もある。また、災害の種類によって避難所も変わる。
災害の種類ごとに見ておく(大阪市北区のハザードマップの例)
水害は浸水予想範囲だけでなく、「浸水継続時間」のマップも見ておきたい。浸水が長引くと予想されるエリアの場合は、マンションの上階などで住居は無事だとしても、生活インフラに支障が出るため避難が必要になる。
もう一つ大切なのは、必ず紙のマップを手元に置いておくこと。「いざというときにネットで見ようとしても、アクセス殺到でサイトにつながらない可能性がある」(あんどう氏)
災害社会工学が専門の片田敏孝・東京大学大学院特任教授は、「ハザードマップを有益なものにするには、防災対策で自ら積極的に活用することが重要」と強調する。まずやっておきたいのが、マップを手に徒歩や自転車で居住地域を見て回ること。「地域内の土地の高低や危険そうな場所を頭に入れておくと、避難時により安全な経路を選べる。公衆電話や災害時帰宅支援ステーション、災害対応自販機などの場所も把握できる」(防災アドバイザーの岡本裕紀子氏)。
そうして、災害の種類ごとにマップで避難所を確認し、そこまでの経路を2〜3パターン考えておくといい。地域を実際に見ていることで、洪水のときには土地が低い方面は避ける、地震や火事のときには木造住宅密集地は避けるといった判断もしやすい。避難時の集合場所を家族と共有する際には、「○○小学校の裏門」といったように、できるだけ具体的に決めるのが大事だ。「家族の写真や必要な連絡先を記した紙を持っておくことも勧める。スマホが使えないときに役に立つ」(岡本氏)。
決められた避難所だけでなく、親戚や知人宅など独自の避難場所も考えておきたい。洪水のように事前にある程度の情報が分かる災害の場合は、「離れた安全な地域に早めに逃げる、広域避難の考え方も大切」(片田氏)だ。
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