日本列島を襲う豪雨や台風の際、川の氾濫から街を守るために活躍しているのが「治水施設」だ。調節池などがどのような役割を果たすのかを取材した。
※日経トレンディ2020年8月号の記事を再構成
2019年、狩野川台風に匹敵する強い勢力を持った“過去最大クラス”の台風19号が、10月12日に伊豆半島に上陸し首都圏を直撃。関東地方を北東方向に蹂躙(じゅうりん)し、死者・行方不明者100人、住家浸水5万9000棟など、記録的な暴風と大雨で各地に多大な被害を与えた。
ただ、都心部では多摩川などの一部を除けば、あれほど危険視されていた“ゼロメートル地帯”を含めて、当初想定されていたような大規模な氾濫や浸水被害はほぼ発生しなかった。大きな被害を免れた東京を裏で支えていたのが、知られざる「治水施設」の存在だ。
かつて都庁で河川事業に従事していた専門家で『首都水没』(文春新書)の著者でもある土屋信行氏は「今回の台風19号では、1947年のカスリーン台風の頃から約70年かけて積み上げてきた治水のインフラ整備が功を奏した。しかし、それでも“首の皮一枚”でつながった本当にぎりぎりの状態だった」と語る。実は、台風19号では各地にある治水施設のほとんどがほぼフル稼働の状態だったのだ。
例えば、地底50メートルにある全長6.3キロメートルの世界最大級の地下放水路「首都圏外郭放水路」(埼玉県春日部市)。葛飾区や江戸川区を流れる中川の上流に位置し、5つの川からあふれた水の一部を江戸川に排水して洪水被害を防ぐ施設だが、台風19号ではすべての取り入れ口から水が流入。総量1218万立方メートル、実に東京ドーム約10個分もの水を調節した。
その約3倍に当たる3500万立方メートルという途方もない水量を同じ台風19号でため込んだのが荒川の上流、埼玉県戸田市近辺にある「荒川第一調節池」だ。5.8平方キロメートルの敷地内に運動公園や広場、人工の湖「彩湖」などを擁する広大な調節池だが、荒川から流れ込んだ水は許容量の何と90%に到達。草木が生い茂っていた公園や広場を泥水が埋め尽くしたが、足立区や葛飾区、江戸川区など、荒川が貫く都内「江東5区」の洪水被害を食い止めた。
荒川や江戸川といった大きな川だけでなく、都市部を流れる中小河川に設置された数々の治水施設も台風19号では全面稼働を続けた。
環状七号線の地下約40メートルに掘られた都内最大の「神田川・環状七号線地下調節池」は、台風19号で神田川と支流である善福寺川、妙正寺川の増水を受け止め「貯水率は9割ほどに達した」(東京都建設局河川部)。目白通りの地下を通る「白子川地下調節池」も白子川と石神井川の水が流入し、下流の水位低下に効果を発揮。都内では過去最多となる21もの調節池が稼動したという。
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