美食の街、スペインのサン・セバスチャンにある世界屈指の食のアカデミア「バスク・カリナリー・センター(以下BCC)」の核心に迫るリポート第2弾。今回はスタートアップとの連携最前線である「LABe」を取り上げる(取材・インタビュー協力/スクラムベンチャーズ・外村仁氏)。

10人まで入れるLABeの「360°エクスペリエンス・ルーム」では、特別な食体験を演出するための実験が行われている。ワインの生産過程でもこの部屋が利用される(写真/Courtesy of Basque Culinary Center)
10人まで入れるLABeの「360°エクスペリエンス・ルーム」では、特別な食体験を演出するための実験が行われている。ワインの生産過程でもこの部屋が利用される(写真/Courtesy of Basque Culinary Center)

BCCリポート第1弾「世界一の美食の街で進むフードイノベーション その発信源は?」はこちら

 今やすっかりグルメの街として知られ、その食文化を堪能しようと世界中から観光客が押し寄せるスペインのサン・セバスチャン。だが、2011年にこの街に誕生した、欧州ガストロノミー界の最高学府「バスク・カリナリー・センター(以下、BCC)」は、ただ「おいしい」だけでは満足していない。この業界に革命を起こそうと、画期的な取り組みが行われている。2020年2月に、その現場を訪ねた。

 「テクノロジー」「オープンイノベーション」──。そんな言葉が、しきりに飛び交う。これがテック企業のオフィスであれば、何の驚きもないだろう。だが、ここは大学が運営する施設で、「食」の分野に特化したコワーキングスペースでの一場面だ。

 美食の街として知られるスペイン・バスク地方のサン・セバスチャンに、2019年7月にオープンしたこの「LABe※外部サイト」は、タバコ工場の跡地に建てられたカルチャーセンター「タバカレラ」の最上階にある。世界でも珍しい4年生の料理大学であるBCCが運営する「デジタルガストロノミー・ラボ」なのだ。

 LABeは、オフィスとしての機能はもちろん、その名の通りスタートアップの「研究所」としての役割も果たしており、デスクやパソコンだけが並ぶ“普通の”コワーキングスペースとは、まったく違う印象を受ける。視覚・聴覚・嗅覚に刺激を与えて特別な食体験を演出する円形の「360°エクスペリエンス・ルーム」や、プロトタイプの作成に使われる実験用のキッチン、さらに一般客も利用できるレストランが併設されている。フリーランスも利用できるが、利用者の中心はサン・セバスチャン内外に拠点を置く27のスタートアップ企業だ。彼らが取り組む分野は、IoTや室内農業、スマートレストラン、3Dフードプリンターなどと幅広い。

 こうしたスタートアップ企業は、専門家たちをメンターにつけてビジネスを発展させる、LABe主催の“ブートキャンプ”、「カリナリー・アクション」に参加している場合が多い。2020年春・夏のプログラムでは10社が参加している。

■ LABeに拠点を置く主なスタートアップ
企業 ソリューション領域 国・地域
ARTHYLEN 拡張現実・コンピュータビジョン・AI スペイン・マドリード
Leanpath 廃棄のデジタル管理 米国
tSpoonLab レストランの全体管理 スペイン・バレンシア
Food Safe System カメラのセンサー化 アイルランド
Dinify インスタント翻訳 韓国
Vitamojo カスタマイズされたデジタルメニュー 英国
iflares 危害分析、重要項目の管理 スペイン・マドリード
Eat Me 拡張現実(AR)を使ったメニュー表示 スペイン・セビーリャ
TraceMyDrinks 飲料用のブロックチェーンソリューション スペイン・バルセロナ
ckbk レシピプラットフォーム 英国
Zero Food Print レストラン向けサステナビリティーメソッド 米サンフランシスコ
REFOODLUTION メニューでのアレルギーのインジケーター(指標)表示 スペイン・バルセロナ
Cloud Reputation AIによるオンラインの評判監視、管理 米サンフランシスコ
maybein 予約・キャンセル管理サービス スペイン・バリャドリード
Diet Creator 栄養管理のためのソフトウエア スペイン・バルセロナ
COVER MANAGER 予約管理 スペイン・セビーリャ
Innguma 技術監視のプラットフォーム スペイン・ビルバオ
Vinipad レストランのデジタルメニュー スペイン・マドリード
光あふれる「タバカレラ」のエントランス。LABeは5階にある
光あふれる「タバカレラ」のエントランス。LABeは5階にある
開放的な実験用のキッチン
開放的な実験用のキッチン

 LABeのミッションは「食文化のデジタル変化を、私たちの健康、サステナビリティー、そしておいしい未来へとつなげる」こと。だが、そもそも「デジタルガストロノミー」とは何か。彼らはこう定義している。

 「人間が良い食糧・飲料を作り、変化させ、創造し、広め、消費する手段となる新しいデジタルテクノロジーの利用であり、身体、精神そして社会的健康につながる潜在力のあるもの」

 それでは、この「新しいデジタルテクノロジー」は、食の分野において、どのような利用方法が考えられるのだろうか。

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