「残された時間は2、3年」 イオン系食品スーパーの危機感(画像)

「良いものをより安く」。米国で生まれた「スーパーマーケット」が掲げたこのスローガンを信条としてきた日本の食品スーパーが揺らいでいる。ライフスタイルの変化により、顧客側には「毎日、買い物に出かける」理由が薄れている。これから提案すべき新しい価値とは何か。食品スーパー大手のユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(U.S.M.H)の藤田元宏社長に次の一手を聞いた(聞き手は、シグマクシス福世明子氏)。

19年10月、茨城県つくば市にあるU.S.M.H傘下のカスミ本社1階にオープンした無人店舗の実験店「KASUMI LABO」。スマートフォンで商品登録・決済できる「U.S.M.H公式モバイルアプリ」と連動した新しい買い物体験を提供する
19年10月、茨城県つくば市にあるU.S.M.H傘下のカスミ本社1階にオープンした無人店舗の実験店「KASUMI LABO」。スマートフォンで商品登録・決済できる「U.S.M.H公式モバイルアプリ」と連動した新しい買い物体験を提供する

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※本インタビューは、書籍『フードテック革命』(2020年7月23日発売、予約受付中、日経BP)掲載分を一部改編したものです。■Amazonで購入する

藤田社長はここ数年、事業変革に取り組んできましたが、その背景となる業界が抱える課題を最初にお聞きしたいのですが。

藤田元宏氏(以下、藤田氏) 日本の食品スーパーの源流は米国で生まれた「スーパーマーケット」です。駐車場を有した敷地に大きな店舗を構えて食品や日用品を取りそろえ、お客様がセルフサービスでほしいものを購入するスタイル。この米国流スーパーマーケットをヒントに日本のスーパーマーケットも始まり、これまで発展してきました。しかし、ここ数年は、市場環境のみならず、ビジネスモデルそのものが揺らいでいます。

 スーパーマーケットは典型的な労働集約型産業。「良いものをより安く届ける」ことができたのも働く人たちのおかげですが、経営の源泉となる人を集めるのに苦労するようになった。今後、事業の継続が脅かされるレベルになるでしょう。

 もう1つの変化は、お客様の生活環境です。日常生活のデジタル化により、モノの買い方や情報収集の仕方が変わってきており、わざわざ店に足を運ぶ理由が薄れています。スーパーマーケットは、このようなお客様の変化に対応できておらず、お客様との乖離が起きています。「人生100年時代」ともいわれており、今後、お客様の価値観やライフスタイルはさらに変化を続けるでしょう。そのとき、スーパーマーケットは、お客様の変化に合わせた新たな価値提供をしなければなりません。それができて初めて、社会的存在意義が認められると思っています。

 このような理由から、スーパーマーケットのビジネスそのものを考え直す時期に来ていると考えています。いずれにしても、我々に残された時間は少ない。ここ2、3年がスーパーマーケットの勝負時だと言っています。

ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス藤田元宏社長。1955年生まれ。78年にカスミ入社。人事部マネジャー、常務取締役などを経て、2012年、代表取締役社長に。15年にU.S.M.Hの取締役副社長に就任し、17年から代表取締役社長。イオン代表執行役副社長SM・商品物流担当、カスミ取締役、マックスバリュ関東取締役を兼任
ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス藤田元宏社長。1955年生まれ。78年にカスミ入社。人事部マネジャー、常務取締役などを経て、2012年、代表取締役社長に。15年にU.S.M.Hの取締役副社長に就任し、17年から代表取締役社長。イオン代表執行役副社長SM・商品物流担当、カスミ取締役、マックスバリュ関東取締役を兼任

このような業界への危機感は、GMS(総合スーパー)やコンビニエンスストアなど、近接業界の経営者も同様に抱いているのでしょうか。

藤田氏 このままではだめだ、というのは流通業界全般の見方です。ただし、動き出す企業と動かない企業に二極化しています。

どうして業界内でも反応が違うのでしょうか。

藤田氏 経営陣の危機感とその危機感を組織全体で共有できているかどうかの違いでしょうね。

なぜ、藤田社長は強烈な危機感を持つに至ったのでしょう。

藤田氏 私はスーパーマーケット業界で40年以上勤めてきました。これまで、様々なことを市場に対して仕掛けてきましたが、ここ数年、何をしても思うように結果が出ないのです。こんなことは初めてです。ここに来て、スーパーマーケットはお客様から「要らない」と言われているのかもしれないとの思いに至ったのです。要するに、スーパーマーケットは「お客様と乖離している」のだと考えています。

これまでのスーパーマーケットの価値は何だったのでしょう。そして、これからの価値は何でしょうか。

藤田氏 これまでのスーパーマーケットの価値は、「お店に行けば、食料品や日用品が、いつでも好きなだけ買えること」でした。ある意味、画一的な価値を提供してきたのだと思います。ところが、今のお客様は一人ひとりスーパーマーケットに求める価値は異なります。例えば、商品に対しては食材、半加工品、すぐ食べられる総菜など、求める加工のレベルが異なる。買い方に対しても、スタッフからの説明やお薦め、さらには会話という温もりまで求める人もいます。

 一方で、お店に行けず、家まで届けてほしいという人もいます。一人ひとりのお客様を理解し、異なるニーズに応えていくことが、食料品を提供するインフラとしてのスーパーマーケットの役割であり価値だと思います。

新しい価値提供の肝はどこでしょうか。

藤田氏 よくスーパーマーケットにはPOSなどのデータが豊富にあるといわれてきましたが、「お客様を理解できているのか」といわれれば、「違う」と答えざるを得ません。お客様を理解するために、データの活用を進めなければならないでしょう。

 例えば、「新型コロナ禍」で一家族の買い物点数は増えています。「平均して従来よりも2点ほど増えている」という報告を受けても、それで何が分かるのでしょう。普段から20点以上買っていた人と5、6点買っていた人では、増え方も違うはずです。お客様一人ひとりを理解できないと新しい価値にはつながりません。そういう視点で、デジタルテクノロジーを最大限活用し、お客様を理解できるようになることが重要です。

日本のスーパーマーケットは米国の輸入モデルということですが、今後、日本ならではの価値を提供するスーパーマーケットは出現し得るのでしょうか。

藤田氏 それは、あると思います。米国のプレーヤーの動きの速さには感服しています。ただし、米国のモデルは同国の環境、生活者に合わせたものなので、日本の環境、生活者に合わせたオリジナルな価値を提供するスーパーマーケットが出てくる可能性はあります。

 例えば、売り手と買い手の顔が見える、「お店に来たらほっとする」という安心感があるなど。こうした日本ならではの価値観が今後大事になっていくと思っています。お客様が雰囲気に浸りに来るようなスーパーマーケットができたら面白いと思っています。

新しい価値提供に向けて、どのような変革を進めていますか。

藤田氏 これまでのスーパーマーケットのやり方を変えずに価値を上げようとすると、コストが膨大に掛かり、持続性のあるビジネスとは言えません。だとすると、スーパーマーケットの仕組みそのものを変えなければなりません。貴重な人財はお客様への接点にフォーカスさせ、現業の労働集約的なオペレーションは自動化や一部縮小させていきます。そのトレードオフを進めるために、オペレーションコストの可視化にトライしています。