植物性代替肉で海外のフードテックスタートアップが脚光を浴びる一方で、本質的なおいしさを追求して植物油脂と大豆プロテイン(タンパク質)の技術を長年蓄積してきたのが、食品素材メーカーの不二製油だ。清水洋史社長が「代用品の時代は終わった」と語る、その真意とは?(聞き手はスクラムベンチャーズ外村仁、シグマクシス田中宏隆)

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不二製油グループ本社 清水洋史社長。1953年生まれ。77年、同志社大学法学部を卒業し、不二製油に入社。99年、新素材事業部長兼新素材販売部長、2001年、食品機能剤事業部長を経て、06年に不二製油(張家港)有限公司董事長。09年、常務取締役に就任し、12年、専務取締役、13年より現職
不二製油グループ本社 清水洋史社長。1953年生まれ。77年、同志社大学法学部を卒業し、不二製油に入社。99年、新素材事業部長兼新素材販売部長、2001年、食品機能剤事業部長を経て、06年に不二製油(張家港)有限公司董事長。09年、常務取締役に就任し、12年、専務取締役、13年より現職
※本インタビューは、書籍『フードテック革命』(2020年7月23日発売、予約受付中、日経BP)掲載分を一部改編・加筆したものです。Amazonで買う

不二製油は、積極的に大豆加工素材事業を伸ばしてきていますが、改めてどういう経緯でこの事業を手掛けることになったのでしょうか。

清水洋史氏(以下、清水氏) 不二製油は戦後の1950年(昭和25年)に立ち上がった、製油メーカーとしては最後発の会社です。最初はココアバターやバターといった付加価値の高い油脂代替品をパーム油やヤシ油で生産し、油脂の技術力を磨いてきました。

 そんな会社が油脂の次に着目したのは、油脂原料として使われていた大豆の絞りかす(脱脂大豆)。実は大豆に含まれる油は2割ほどですが、脱脂後の大豆の中には大豆全体の3割ものプロテインが含まれています。当時は家畜の餌にされていましたが、これを食品として活用しようと、我々が中心となって79年に大豆たん白質栄養研究会(現・不二たん白質研究振興財団)を立ち上げ、研究を進めました。その後、大豆プロテインを使ってがんもどきを作るなどしましたが、あまり売れない時代が続き、潮目が代わったのはインスタントラーメンの普及でした。かやくに揚げを入れるのに、工業的に何百万個というロットで作る必要が出てきて、それを我々の大豆プロテインが担ったわけです。しかし、これを大量に作っても利益は大して上がりません。でも、我々は諦めなかった。

それはなぜですか。

清水氏 不二製油は、当初から「大豆は地球を救う」と本気で思ってきた会社なんです。というのも、人間に必要な栄養素として大豆を見ると非常に優れていて、例えば家畜と比べて生産に必要な水使用量は格段に少ないし、エネルギー効率は圧倒的に高い。コレステロール値や内臓脂肪、中性脂肪を低減させるなど、様々な機能を持つことも、長年の研究で分かっています。今でこそ、2050年に世界人口が100億人に迫るという予測があるから、従来の家畜を中心としたプロテイン源の見直しをしなければならないといった議論がありますが、我々はそれ以前から、大豆の可能性を信じてきました。

 私が課長時代、94年に大豆プロテインを使った商品を世に広めようと、「週に一度はベジタリアン」という動画を作りました。これまでの高脂肪、高カロリーな食生活の反省から、当時、欧米ではすでにベジタリアンの食事が見直され始めていました。そこから日本人の食生活を考え直したときに、「完全にベジタリアンになるわけではないけども、食を楽しみながらたまには野菜中心にしてみませんか」という提案をしたのです。そうした食生活は、現代ではフレキシタリアン(週に1回以上、意識的に動物性食品を減らす食生活)と呼ばれて一般化しつつありますから、時代がやっと追い付いてきたという感覚です。

そうした歴史を持ちながら、12年10月に発表した大豆事業の中長期事業戦略「大豆ルネサンス」、およびそれを実現する新技術「USS(Ultra Soy Separation)製法」を発表しました。これは大きなターニングポイントになったのでは。

清水氏 その通りです。健康と環境に良い大豆のさらなる浸透のため、もう一度大豆の原点に戻り、これまでにない大豆の新しい価値の創造を通して人と地球に貢献していくために、「大豆ルネサンス」というビジョンを掲げました。特許を取得した「USS製法」は、大豆本来のおいしさを追求した独自の分離分画技術です。これにより、大豆から低脂肪豆乳と豆乳クリームという新たな素材を作り出すことに世界で初めて成功しました。

 USS製法が生まれたきっかけは、あるとき米国で超臨界の技術を使って物理的に油を搾り出す技術が開発されたのを知ったこと。これまで大豆油は化学系の食品添加物を使って高温抽出していましたから、画期的なことでした。そして物理的に油を絞れるということは、大豆プロテインもオーガニックなものができるということです。

 非常にワクワクして、この技法で作られた大豆プロテインを日本に持ち帰り、不二製油の研究所に評価を依頼したら、「不純物が多くて機能が劣るから商品にならない」という回答。がっくりきました。

 そうこうしているうちに、実はモンサント(現・バイエル)が新しい大豆を開発した。それは、大豆プロテインの中に非常に高濃度に中性脂肪を落とす成分(β-コングリシニン)を持つもの。それを手に入れて豆乳を作ってみると、若い品種だからか、油分が自然分離するということが起こった。これは面白いと、今度は知り合いの乳業メーカーの技術者を訪ねました。なぜ乳業メーカーかというと、牛乳は遠心分離するだけでバターと脱脂牛乳に分かれる特性を持っていて、大豆ビジネスにおいてもその状態が理想的だったからです。訪ねた技術者は、「大豆の場合はおからも出るから、うちの機械で試しなさい」とアドバイスをくれました。

 早速テストしましたが、全く何も起こらない。意気消沈して再び乳業メーカーの技術者を訪ねると、その人は「それは面白い」と言ったんですよ。自然分離した事実があるのだから何か方法があるはずで、まだ見つかってないだけでしょうと。目からうろこが落ちました。技術者の鏡のような人だと思います。

 それで勇気をもらって再び自社に持ち帰り、やり方を変えながら試行錯誤した。ノウハウなので詳しくは話せませんが、遠心分離する前にある処理をすることで大豆を低脂肪豆乳と豆乳クリーム、おからに分けることに成功したのです。

通常の豆乳の製造工程とUSS製法の違い。USS製法では味わいを保ったまま低脂肪豆乳、豆乳クリーム、おからを作れる
通常の豆乳の製造工程とUSS製法の違い。USS製法では味わいを保ったまま低脂肪豆乳、豆乳クリーム、おからを作れる

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