
多くのスタートアップ、大企業が参入する植物性代替肉市場で、注目ブランドの1つが米インポッシブルフーズだ。完全植物性の「代替肉」ではなく、あくまで「本物の肉」に近づけることを目指し、新しい「肉の市場」を開拓している同社の製品戦略、市場展開を創業メンバーに聞いた(聞き手はシグマクシス岡田亜希子)。
世界で急速に進む食のイノベーションを徹底解説した初の書籍『フードテック革命』(日経BP)が、2020年7月23日に発売になります(現在は予約受付中、Amazonで買う)。今回は、本書の中から世界のフードテックの代表格といえる植物性代替肉の先端スタートアップ、米インポッシブルフーズへの単独インタビューを一部改編し、お届けします。
インポッシブルフーズは、今の代替肉市場を代表するブランドとして、日本でも知られています。私たちは米国で「インポッシブルバーガー2.0」を食べましたが、とてもおいしいと思いました。インポッシブルフーズと他の製品の違う点は何だと思いますか。
ニック・ハラ氏(以下、ハラ氏) 今おっしゃった「おいしさ」が大事なのです。おいしくなければ、ブランドにはなり得ません。認知度も高まらなかったと思います。
私はインポッシブルフーズ創業時からの従業員ですが、起業するまで「植物ベースの食事」とは無縁の生活をしてきました。酪農場で育ち、大手の食品会社でしばらく働いていましたが、ヴィーガンのように肉を食べない食事を試したことはありません。同じ創業者であるPatrick Brown (パトリック・ブラウン、CEO)と出会うまで「肉食が地球に及ぼす悪影響」について考えたこともなかったのです。
しかし、牛一頭を育てるのに必要な水(年間4万1600リットル)、穀物の量、牛が排出するメタンガス(温暖化ガスの10%相当)などなど、地球環境への負荷、食料問題に与える影響を知るにつれ代替肉の重要性が分かりました。
そこで、創業初期のころ、当時市場に出回っていた「植物性代替肉」「代替乳製品」をいろいろ試食したのです。ところが、正直、「あ、これはもう二度と食べることはない」と思いました。プロテイン(タンパク質)としては貴重ですが、肉好きな人たちが好む味ではなかったからです。環境のためとはいえ、我慢を強いる食品は広まりません。肉が好きな人たちが普通に「おいしい」と評価し、積極的に購入してもらう食品でなければ、肉の消費を抑えることにならないのです。
ですから、インポッシブルフーズの何が違うのかという最初の質問に戻れば、私たちは“筋金入りの肉好きの生活者”を一番のお客様と考えていることです。肉好きの生活者たちを惹きつけることで、最終的なミッションをかなえようとしています。この点が他のプレーヤーと違います。
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なるほど。他にも違いはありますか。
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