
“人生最高のチーズケーキ”と称される「Mr. CHEESECAKE(ミスターチーズケーキ)」を率いる田村浩二氏に聞く、with&アフターコロナ時代の外食産業の後編。「今だからこそ、旧来のレストランの風習から抜け出すチャンス」と語る、その真意とは?(聞き手はシグマクシス福世明子氏)
シェフは料理ではなく“体験”を作る仕事
自分のやりたいことや価値は、レストランで提供するコース料理でしか表現できず、田村さんが実践されているネット通販での単品勝負はできないと諦めているシェフも多いのでは?
田村氏 そう思っているシェフがいるとすれば、完全な間違いだと思います。もちろん、レストランの最大の強みは、顧客から2~3時間という長い時間をもらい、その中でコース料理という体験を提供できることであるのは確か。しかし、コース料理という“線”を作るには、そもそも一品一品の“点”が良くなければ成立しません。基本的にはコース料理であれ、単品であれ、食べた人がどんな感情になって、その人の行動がどう変わるかが一番重要です。分かりやすく言えば、食べるとおいしくて、感動し、さらに人に伝えたくなるというアクションまで生み出せるかがシェフの腕の見せ所なわけです。
Mr. CHEESECAKEのように、例えば単品のスイーツをオンラインで展開する場合、コンビニスイーツが競合になる可能性もあります。そうならないためにはどうすべきか。私が思い付いたのは、顧客の“時間”をいただくことです。自宅でもスイーツに向き合う時間をしっかりつくれれば、レストランに近い体験になる。買ってその場で食べられるコンビニスイーツとは一線を画し、「非日常の体験」を提供しようと考えたわけです。
そこで最初に決めたのが、チーズケーキを冷凍で届けることでした。冷凍状態ではアイスケーキのような食感と酸味が引き立つ味わいを、室温で1時間程度置いた半解凍状態では中心に残る冷凍の食感と外側の滑らかなコントラストを、完全解凍ではまるでブリュレのような滑らかさをと、時間の経過で3段階の味わいを楽しめる。それが、「時間をかけて食べてください」というコミュニケーションを前向きなメッセージに変えたのです。
【第2回】 ロイヤルHD菊地会長「『ピーク前提』の外食モデルは見直し必須」
【第3回】 外食×フードテックで「時間」の無駄をなくせ ロイヤルHDの視点
【第4回】 「プラントベースド=肉の代用品」の時代は終焉 不二製油の挑戦
【第5回】 完売続出のチーズケーキD2Cに学ぶ アフターコロナの戦い方
【第6回】 シェフならではの「体験設計」が肝 好調スイーツD2Cの学び
【第7回】 「残された時間は2、3年」 イオン系食品スーパーの危機感
【第8回】 完全植物肉の米インポッシブル 「ミートラバー」を虜にする秘密
【第9回】 世界一の美食の街で進むフードイノベーション その発信源は?
【第10回】 大学×スタートアップ 「美食の街」がフードテックの聖地に
【第11回】 食のDXを進める10カ条とは? 世界で進む驚異のフードテック教育
自宅で食べるスイーツも、文脈を組み変えることで全く別物の体験になると。
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー