完売続出のチーズケーキD2Cに学ぶ アフターコロナの戦い方(画像)

新型コロナウイルスの影響で休業や来店客の急減に見舞われ、壊滅的なダメージを受けた飲食店業界。今後、レストランはどのように進化し、これからの非連続の時代を生き抜くべきか――。ミシュラン星付きフレンチレストランのシェフ(料理長)から転じ、ネット通販で完売続出、“人生最高のチーズケーキ”と称される「Mr. CHEESECAKE(ミスターチーズケーキ)」を率いる田村浩二氏に、次の一手を聞いた(聞き手は、シグマクシス福世明子氏)。

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田村浩二氏。1985年生まれ、35歳。調理師専門学校卒業後、「L'AS(表参道)」などを経て、渡仏。ミシュランの三ツ星レストランで修業し、帰国後の17年、世界最短でミシュランの星を獲得した「TIRPSE (ティルプス)」のシェフに弱冠31歳で就任。World's 50 Best Restaurants の「Discovery series アジア部門」選出、「ゴーエミヨジャポン2018期待の若手シェフ賞」を受賞。現在はオンライン販売のみで大人気のチーズケーキ「Mr. CHEESECAKE」の運営の他、複数のビジネスを展開。Twitterフォロワー数が約4万人のシェフインフルエンサーとしてSNSも活用
田村浩二氏。1985年生まれ、35歳。調理師専門学校卒業後、「L'AS(表参道)」などを経て、渡仏。ミシュランの三ツ星レストランで修業し、帰国後の17年、世界最短でミシュランの星を獲得した「TIRPSE (ティルプス)」のシェフに弱冠31歳で就任。World's 50 Best Restaurants の「Discovery series アジア部門」選出、「ゴーエミヨジャポン2018期待の若手シェフ賞」を受賞。現在はオンライン販売のみで大人気のチーズケーキ「Mr. CHEESECAKE」の運営の他、複数のビジネスを展開。Twitterフォロワー数が約4万人のシェフインフルエンサーとしてSNSも活用
※本インタビューは、書籍『フードテック革命』(2020年7月23日発売、予約受付中、日経BP)掲載分を一部改編したものです。■Amazonで購入する

 毎週日曜と月曜の朝10時に数量限定でネット販売されるや、たった5分で完売するという“幻のスイーツ”がある。ミシュランの三つ星レストランなどで活躍したスターシェフ、田村浩二氏が立ち上げたスイーツブランド、「Mr. CHEESECAKE※外部サイト」だ。

 田村氏は、星付きレストランでシェフを務めながら、勤務後の時間を使って独自のチーズケーキを焼き、2018年の4月5日にInstagramを通じて販売を開始。その後、シェフを辞し、ネット通販専門ブランドとしてMr. CHEESECAKEを運営してきた。オンライン発で顧客と直接つながりながら成長する「D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)」として、食分野での成功モデルといえる存在だ。そんな田村氏は、新型コロナウイルスにおけるレストランビジネスの変化をどう読み解くのか。

コロナ禍で失われた“レストラン体験”

新型コロナウイルスの“襲撃”による、飲食店やレストランの厳しい現状をどう見ていますか?

田村浩二氏(以下、田村氏) 緊急事態宣言の発令下では多くのレストランが休業を強いられ、ネット通販やテークアウト、デリバリーに挑戦する動きが盛んになりました。しかし、思うように売り上げが立たない。それは、顧客がレストランに対して求める価値のズレがあるからです。顧客は料理だけではなく、一緒に行く人を決める時間やレストランでと過ごす時間、空間も含めた“体験”があるからこそわざわざ足を運んでいた。コロナ禍でそれが提供しにくくなった一方で、レストランの体験価値の重要性が改めて浮き彫りになったのが現状です。

 また、どんなに凝った料理でも、おいしさが的確に届く形でないと、その能力は発揮できない。これまでシェフは、料理を仕上げてすぐに食べてもらえるレストランという「箱」に最適化された料理をつくるプロでした。それを、顧客が食べるまでに20分以上も掛かるテークアウトにチューニングし直す必要があります。つまり、冷めてもおいしいなど、時間の経過による状態の変化に耐え得る料理、あるいは時間が経ってから食べることを想定して味のピークを考えなければならない。それが、実に困難なわけです。

レストランという場所が使えないことの弊害が様々な側面に顕在化している。

田村氏 そうです。また、これまでレストランは東京・六本木ならこういう店、渋谷ならこんな店と、極めて細分化されたエリアの中でポジショニングを考え、そこで勝ち進めば人が来てくれたモデルでした。しかし、テークアウトやデリバリー、ネット通販が“主戦場”になると、それが成り立たない。まず、顧客に店の存在を知ってもらうためのツールは基本的にネットになる。デジタル空間での影響力がどれだけあるかが重要になり、食べてもらう前のコミュニケーションの良し悪しがカギを握るわけです。逆に言えば、SNSやネットの活動が貧弱だと、どんなにおいしい料理を作ってもアクセスされない。それが、コロナ禍を経た現在の一番大きな変化だと思います。

ネットへの影響力を磨くにはどうすれば良いでしょう。

田村氏 従来のレストランは、シェフが複数のスタッフをまとめあげて料理を作る「チーム戦」です。それに対し、ネットは個々の発信力がものをいう「個人戦」。効果的な発信を行うには、シェフ個人が料理以外のコミュニケーション力や文章力、映像、写真などを使った発信力を伸ばす必要があります。もちろん、それが得意な仲間と一緒につくる手もあるでしょう。

 ネットで個人戦を挑むには、もう1つポイントがあります。今までは、どうしてもレストランや代表料理=シェフ個人のアイデンティティーと認識されがちでした。しかし、本来ならシェフの個人的な魅力が前面に出るべきというのが私の持論。レストランで提供する料理はあくまで仕事であって、例えばフレンチのシェフがプライベートではタイ料理にはまっているなど、レストランのイメージと離れた個性、発信があってもいいと思う。そうした発信でシェフ個人に興味を持ってもらい、応援してくれる人を増やすことが、1つの道です。