ロイヤルホールディングスの菊地唯夫会長が語る、with&アフターコロナ時代の外食産業の後編。これからのレストランの役割は、新型コロナによって分断された社会や人間関係を回復させること。その真意とは?(聞き手はシグマクシス田中宏隆氏、福世明子氏)。

インタビュー前編(特集第2回)はこちら

ロイヤルホールディングスの菊地唯夫会長
ロイヤルホールディングスの菊地唯夫会長
※本インタビューは、書籍『フードテック革命』(2020年7月23日発売、予約受付中、日経BP)掲載分を一部改編・加筆したものです。Amazonで買う

「場所」の価値が下がり、「時間」の価値が上がる

withコロナ、あるいはアフターコロナの時代に、チェーン店としての強みは何だと考えますか?

菊地唯夫氏(以下、菊地氏) 大きいのは、セントラルキッチンを所有していること。ロイヤルホールディングスのセントラルキッチンは、工場ではなく文字通り巨大な“キッチン”です。カレーはシェフが丁寧に味を調えながら鍋で作り、ビーフシチューは牛肉を手切りするなど、本当に手間をかけて調理しています。そうしてセントラルキッチンで一次加工したものを、店舗の厨房でもう一度最終調理してお出ししているのですが、以前、「キッチンの二重使い」と問題視されたこともあるほど。しかし、withコロナの時代に入って、セントラルキッチンで作ったものを冷凍して家庭向けにネット販売する「ロイヤルデリ」の売り上げが好調で、その強みが今になって生きています。ロイヤルデリのメニューは、今後拡充するべく議論しています。

冷凍食品の「ロイヤルデリ」は自社ネット通販の他、一部店舗で扱う(写真は、東京都世田谷区「GATHERING TABLE PANTRY 二子玉川」内の専用ショーケース)
冷凍食品の「ロイヤルデリ」は自社ネット通販の他、一部店舗で扱う(写真は、東京都世田谷区「GATHERING TABLE PANTRY 二子玉川」内の専用ショーケース)

 今は、我々ロイヤルHDも含めて多くの飲食店が変わることを余儀なくされています。大切なのは今回、背に腹は代えられない状況で実践し、意外と売れることが分かったやり方を持続できるかどうか。こうした成功体験は、平時の緩やかな変化の中では決して生まれるものではありません。だからこそ、日本全体の外食産業が“ゆでガエル状態”に陥ってきたわけです。

 ただし、外食市場全体は約26兆円あるものの、大手企業をみても約5000億円の売り上げなので1社でできることは小さいのが現実。ここで大切なのはプラットフォーマーの存在です。デリバリーやテークアウトでプラットフォーマーが出現し、変化が加速しているように、経営やテクノロジーといったサイエンスの部分を横串しで提供する外食産業のプラットフォームをつくっていければ面白いと思います。参加する企業の経営者は、得意なアートの部分に専念できますから。

 交通業界では、既に経営のプラットフォーマーが出現しています。地方のバス会社や鉄軌道会社を傘下に抱え、ベストプラクティスの横展開やスケールメリットを追求することにより、事業再生を行うみちのりホールディングスです。外食産業でも、同じようなイメージの会社が今、求められているのではないでしょうか。

外食産業の派生形が生まれ出すと、他の産業との垣根がなくなり、業界を超えた合従連衡も加速しそうです。

菊地氏 その通り。食品メーカーや流通など、今までにない、より密な連携が生まれるでしょう。一方で当然、他の業界が外食機能を取り込む動きも加速します。そうなると、やはり最後は料理のクオリティー勝負になる。デリバリーで生きていくにしても、クオリティーが低ければ、いずれ淘汰されます。従来ありがちだった、料理はそれほどでもないがサービスや店の雰囲気がいいから行くという消費行動は、今後次第に減っていき、より本質的な部分が問われる世界になるでしょう。

 加えて、デリバリーやテークアウトなどによる外食産業のフードビジネス化が進めば、場所(立地)の価値はどんどん下がっていきます。では、場所の価値が下がるぶん、何の価値が上がるのか。それは、「時間」だと思います。

 わざわざ時間をかけて店に行かなくても自宅でおいしいものを食べられる時代。例えば、店に行ってみたら満員で行列に並ばなければならなかったり、目当ての料理が直前で売り切れてしまったり、時間を無駄にするリスクは許容されないでしょう。こうしたサービスの提供と消費の同時性によって起こっていたレストランの「負の制約」から、顧客を解放するのがテクノロジーであり、フードビジネス化の本質です。もちろん、従業員側も予想以上に顧客が集まって、過度な労働を強いられることもなくなります。

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