ロイヤルHD菊地会長「『ピーク前提』の外食モデルは見直し必須」(画像)

新型コロナウイルスショックが直撃した外食産業。大手のロイヤルホールディングスとて、無関係ではいられない。では、この苦境からどう抜け出すのか。テクノロジー活用で変革を推進してきた菊地唯夫会長が語る(聞き手はシグマクシス田中宏隆氏、福世明子氏)。

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“復活”に向けて動き出しているロイヤルホスト
“復活”に向けて動き出しているロイヤルホスト
※本インタビューは、書籍『フードテック革命』(2020年7月23日発売、予約受付中、日経BP)掲載分を一部改編・加筆したものです。Amazonで買う

露呈した人件費の固定費化

まずは、外食産業全体という観点で今、何が起こっているのか、どんな課題があるのかを聞かせてください。

菊地唯夫氏(以下、菊地氏) 日本はここ数年好景気で、外食産業もインバウンド需要を追い風に売り上げ好調な状況が続いていました。しかし、今回の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)で外食需要が喪失。それと同時に、今まで業績が良かったために見過ごされてきた構造的な問題が一気に露呈したのが、業界の現状だと理解しています。

 構造的な問題の1つが人手不足。外食産業は、忙しい時期、時間帯とそれほどでもない時期のいわゆる繁閑に差があるのが特徴で、これまではアルバイトなど非正規スタッフの数を増減させて対応してきました。言い換えれば、アルバイトの人件費を“変動費”として見てきたわけです。しかし、今回感じるのは、変動費と見ていたのは間違いで、実は「固定費」だったということ。

 なぜなら、今やアルバイトは外食産業にとってコアな戦力であり、いなくなると店自体が回りません。会社が苦しいときに削減に踏み切って、景気が回復した時点で再び補強しようと思っても、深刻な人手不足の中では十分に人員を集められない可能性が高い。ですから、コロナ禍でこれだけ売り上げが激減しても、アルバイトの方には残ってもらわなくてはならず、変動費の固定費化によって損益分岐点が上がってしまった。つまり、需要の喪失に対して非常に弾力性が弱い産業になったというのが、私が今回痛感した問題点です。

ロイヤルホールディングス会長 菊地唯夫氏。1965年、神奈川県生まれ。88年、早稲田大学卒業後、日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)入行。2000年、ドイツ証券を経て、04年にロイヤル(現ロイヤルホールディングス)入社。10年社長、16年会長兼CEO、19年より現職、20年4月より京都大学経営管理大学院特別教授。16~18年に日本フードサービス協会会長を務めた
ロイヤルホールディングス会長 菊地唯夫氏。1965年、神奈川県生まれ。88年、早稲田大学卒業後、日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)入行。2000年、ドイツ証券を経て、04年にロイヤル(現ロイヤルホールディングス)入社。10年社長、16年会長兼CEO、19年より現職、20年4月より京都大学経営管理大学院特別教授。16~18年に日本フードサービス協会会長を務めた

なるほど。再度、変動費に戻すことは難しいと。

菊地氏 その通りです。まずは、視点を変える必要があります。外食産業の費用として占める割合が大きいのは、人件費と家賃。新型コロナ禍で、多くの飲食店はテークアウトやデリバリーを始め、それを支援する出前館やウーバーイーツなどのプラットフォームが注目を集めています。これらのサービスが発達し、生活者が好きなときに、快適に料理を選んで自宅で食事を楽しめるようになると、レストランは必ずしも駅前の好立地に店舗を構える必要はなくなります。そのような店舗では、スタッフも、店舗スペース自体もより小さくできるから、家賃や人件費を圧縮して固定費を下げられるでしょう。店舗形態を柔軟に考えていくのは、アフターコロナに向けた1つの論点だと思います。

キャッシュレス店で生産性アップ

テクノロジーの活用の面では、完全キャッシュレス店の研究など、ロイヤルHDは以前から積極的にチャレンジしてきました。

菊地氏 我々が完全キャッシュレスの研究開発店を出したのは、「外食産業は市場規模が大きい割に生産性が低い」という課題に向き合うためです。生産性は分母を店舗スタッフの数、分子を付加価値とすることで示せますが、それを高めるためにはスタッフを減らすか、付加価値を上げるしかありません。ここでやりがちなのが、前者の選択。しかし、外食産業では、人を減らすことはサービスの価値を下げるリスクに直結します。なぜなら、この産業の特徴は「サービスの提供と消費の同時性」にあるからです。3人で営業していた店を2人に減らせば、現場が慌てふためき、サービスの価値が下がるのは目に見えていますよね。結果、分母を小さくしているつもりが分子も小さくなり、顧客満足度が低下する危険性がある。

 そこで、我々が考えたのは、顧客が満足度を感じる部分には人を集中的に配置し、人がやっても機械がやっても同じ部分は機械に任せるという発想です。例えば、皿洗いや営業終了後の掃除、閉店後のレジ締めなどは、サービスの価値とは直接的に結びつかないから、機械に任せられる部分です。つまり、テクノロジーに置き換えても分子(付加価値)は小さくならない。人手不足で人を簡単に集められない中、テクノロジーとの向き合い方を踏まえて始めたのが、完全キャッシュレス店でした。

 ただし、先ほど述べたように、今回のパンデミックで人件費の固定費化という新しい側面が浮上してきました。この問題に対しても、テクノロジーの活用で解決していく必要性が生じています。

ロイヤルHDが東京・⽇本橋⾺喰町に17年11月にオープンした完全キャッシュレスの研究開発店「GATHERING TABLE PANTRY(ギャザリング・テーブル・パントリー)」
ロイヤルHDが東京・⽇本橋⾺喰町に17年11月にオープンした完全キャッシュレスの研究開発店「GATHERING TABLE PANTRY(ギャザリング・テーブル・パントリー)」

菊地会長は外食産業の経営力を向上させる活動にも、先頭に立って取り組んでいます。

菊地氏 「経営はアートとサイエンスの融合である」とよく言われますが、外食産業はまさにこの言葉が当てはまります。顧客の共感を呼ぶ商品やサービスをつくるためには、人の心の琴線に触れるアート的な部分が重要。一方で、経営は数値を駆使したサイエンスの部分も不可欠で、2つを融合させてはじめてサステナブルな企業になり得ると思います。

 ただし、問題は華やかなアートのほうが目立ちやすく、前面に出やすいこと。だから、もっとサイエンスの部分を強化すべきだというのが私の考えです。そして、経営だけではなく、テクノロジー活用もサイエンスの領域にあるもの。これからの外食産業はサイエンスの力なくして未来はない。そう強く感じています。

 歴史を振り返れば、ロイヤルHDの創業者である江頭匡一にせよ、日本マクドナルド創業者の藤田田氏にせよ、外食産業の有名な経営者はアートとサイエンスの両方を持っている人物でした。それが、世代が変わるにしたがってサイエンスのほうが消えがちで、「商品やサービスはこうつくれと言っていた」などと、目に見える形として目立つアートの部分だけが語り継がれてしまう。概して視点がサイエンスに向かわないのは、それに注力すると「自分たちが大事にしてきたアート的な部分が失われてしまう」という根拠のない恐怖感があるからなのかもしれません。

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