「新しい生活様式」を支えるデザイン

デザインファームのNOSIGNER(横浜市)は、新型コロナウイルス感染症への対策をまとめた「PANDAID(パンドエイド)」と呼ぶサイトを立ち上げている。非営利で自主運営ながら、感染症の知識からテレワークの方法などさまざまな情報を掲載し、外国語のコンテンツも多い。代表の太刀川英輔氏に狙いなどを聞いた。

前回(第9回)はこちら

太刀川英輔氏
(写真/丸毛透)
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太刀川 英輔(たちかわ えいすけ)氏
NOSIGNER代表
デザインストラテジスト/慶應義塾大学特別招へい准教授

ソーシャルデザインで美しい未来をつくる(デザインの社会実装)ことと、発想の仕組みを解明し変革者を増やす(デザインの知の構造化)ことの2つの目標を実現するため、次世代エネルギーや地域活性、伝統産業などに代表される分野で多くのデザインプロジェクトを推進。プロダクトやグラフィック、建築・空間など領域を越境するデザイナーとして活動中

PANDAID のサイトが好調なようですね。

2020年4月にPANDAIDを公開して以来、大きな反響がありました。約300人のボランティアの方に支援していただき、5月の緊急事態宣言終了後でも参加人数が増えているほどです。東日本大震災の際にも災害時に有効な知識を集めて共有するサイト「OLIVE」を公開しましたが、今回もパンデミック(世界的な大流行)から命を守るために多くの知恵が結集しています。

PANDAIDのサイトはボランティアが運営し、日本語や英語に加えて、アジア圏の言葉による情報が増えてきている(PANDAIDのサイトより)
PANDAIDのサイトはボランティアが運営し、日本語や英語に加えて、アジア圏の言葉による情報が増えてきている(PANDAIDのサイトより)
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 例えば、新型コロナウイルスとは何かといった基本的な知識はもちろん、新型コロナによる感染症にかからない、あるいは感染症を人にうつさないための新しい生活様式に関する知識をインフォグラフィックで分かりやすく掲載しています。特にアクセスが多かったコンテンツはソーシャルディスタンス(社会的距離)を表現したポスターでした。感染を防ぐには、2メートルの距離が必要といわれますが、これまでの普通の生活では2メートルなんて意識していませんよね。だから実際に2メートルがどれくらいあるかを理解できるようにしたポスターをデザインし、自由にダウンロードできるようにしました。2メートルという数字を畳の長さや自転車1台分、本マグロ1匹分などとしてイラストで示しています。数字では理解できなくても、いろいろなものに例えると分かりやすい。このポスターは国際連合をはじめ、世界中の組織や企業に使用していただきました。

ソーシャルディスタンスをグラフィックで表現したコンテンツ。2メートルを畳の長さや自転車など身近な視点で示している。誰もがダウンロードして使える(PANDAIDのサイトより)
ソーシャルディスタンスをグラフィックで表現したコンテンツ。2メートルを畳の長さや自転車など身近な視点で示している。誰もがダウンロードして使える(PANDAIDのサイトより)
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 簡易なフェースシールドを作る方法を示したコンテンツも人気です。型紙をダウンロードし、それに合わせてA4判のクリアファイルを切って組み立てるだけ。とても簡単で、約30秒でフェースシールドになる。作り方を紹介した動画は100万回以上、再生されました。サイトを見た小学生が自分でフェースシールドを作り、病院に寄付したという話も聞きました。

クリアファイルなどで簡単にフェースシールドを作れるようにした型紙。誰もがダウンロードして使える。作り方も太刀川氏が自ら動画で紹介
クリアファイルなどで簡単にフェースシールドを作れるようにした型紙。誰もがダウンロードして使える。作り方も太刀川氏が自ら動画で紹介
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 ポスターやフェースシールドも、サイトを見た人たちがどんどん周囲に広めてくれる。支援の輪がさらにつながっていく。サイトを通じて次々と新しいご縁が生まれてきています。

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