
2020年4月の「緊急事態宣言」によって人の移動が制限され、国内の観光業は大打撃を受けた。そんな不利な状況でも5月以降、3密回避(密閉、密集、密接)を逆手に取って「朝食ピクニック」「夜通し居酒屋」など新しいサービスのアイデアを次々と考え、付加価値を高めた好例が星野リゾートだ。顧客の要望をいかにサービスとして実現するか。いわゆるサービスデザインのケースとして注目される。
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3密回避が強く求められ、人気だったビュッフェ形式の食事サービスを休止したものの、代替案をどうすべきか。そんなときに出てきたアイデアが「朝食ピクニック」と呼ぶ食事サービスだ。自然があふれるホテルの敷地内で、自由にシートやクッションの上に朝食を広げて楽しめるようにした。ピクニック用の朝食メニューを開発し、貸し出し用のシートやクッションもそろえた。天気が良く、素晴らしい景色の中で食事ができれば、3密回避になるだけでなく、今までにない体験につながると考えた。
朝食ピクニックは、栃木県那須町にある星野リゾート「リゾナーレ那須」で2020年5月にスタート。「日本初のアグリツーリズモリゾート」をコンセプトに19年11月にオープンしたリゾナーレ那須は、地元の農業活動に触れる体験など「大自然でのリゾート滞在」を打ち出している。約4万2000坪の敷地には客室の他、田んぼや畑、川もある。朝食ピクニックを実施するには最適な場所だった。7月にビュッフェが再開した後でも人気が続き、連日のように多くの宿泊客が大自然の中でピクニック気分に浸っている。
実は朝食ピクニックのアイデアは、宿泊客の行動にヒントがあった。当初はビュッフェの休止に伴い、朝食セットを入れた小型ボックスを客室に運んでいた。すると小型ボックスを客室から持ち出し、客室のベランダや敷地内の畑や田んぼで食事をする宿泊客が出てきた。リゾナーレ那須からは那須岳の雄大な姿を眺めることもできた。そうした宿泊客の様子を社内に報告し、正式に朝食ピクニックとして開始することにした。
「宿泊客にアンケート調査した結果、朝食ピクニックを今後も継続してほしいという意見が多かった。リゾナーレ那須の敷地内には緑に囲まれた“森の中のベンチ”や屋外ソファでくつろげるアクティビティー施設“POKO POKO”の広場の他に、雄大な那須岳を望む“田んぼの畔”もある。敷地内のどこでもピクニック気分を味わえる。自粛による閉塞感が漂う中、ぜひ開放感を味わってほしい」(リゾナーレ那須の松田直子総支配人)。現在、朝食ピクニックはリゾナーレ那須以外に、「リゾナーレ熱海」「リゾナーレ八ヶ岳」など星野リゾートが運営する他の施設にも広がっている。宿泊客は大自然の中で新たな旅の魅力を体験しているに違いない。
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