
「もうどう広告していいのかわからないので。」。新型コロナウイルス感染症が拡大する2020年5月、こんなキャッチコピーと共に掲載された大日本除虫菊(KINCHO、大阪市)の「ゴキブリムエンダー」の新聞広告が話題になった。不安感の中で「コロナを逆手に取ってKINCHOらしい」とSNS上で評価された。
新型コロナウイルスの感染拡大で1週間先の社会情勢さえ見通せない2020年4~5月ごろは、多くの企業が広告出稿をためらっていたという。今後どうなるかが分からなければ、どう表現すべきかも分からない。だが、先が不透明だからこそ新しい広告表現に挑戦し、話題を集めたのがKINCHOのゴキブリ駆除剤「ゴキブリムエンダー」の新聞広告だ。
これまで見てきたような3密回避に向けた取り組みではないが、コロナ禍でもネガティブにならず、厳しい状況をデザインで逆手に取って新たな付加価値に変えようとする姿勢は、今回の特集テーマに共通する動きといえる。
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【第3回】 KINCHOゴキブリムエンダー広告、コロナ不安を逆手に新表現
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2020年5月29日付朝刊に掲載したゴキブリムエンダーの全面広告は、商品の写真より大きなキャッチコピーで目立っていた。「もうどう広告していいのかわからないので。」と書かれていたからだ。「どうしていいか分からない」というKINCHOの表現は、多くの一般ユーザーの気持ちと同じだろう。
さらに広告には「日々状況が変わる毎日です。だれも、先のことはなにも想像できない2020。この広告の掲載日に、世の中の空気はどうなっているのか、人々の気分はどんな調子なんだろうかと考えあぐねて、いろんなバリエーションを用意しました。」とある。中央には「KINCHO」の6文字を縦に並べ、新型コロナの今後の感染状況の変化を6種類の「type」に想定。それぞれの横にQRコードを配置してスマートフォンなどで読み込むと、6種類の状況に応じて作成した6つのウェブ広告に飛ぶようにした。
例えばKINCHOの「K-type」では「緊急事態・外出自粛などが、まだ継続している場合。」としている、QRコードを読み込むと「STAY HOME SAY GOODBYE TO COCKROACH/いまだから、やろう!在宅殺虫!」とゴキブリ駆除を呼びかけるコピーと、世界の人々の笑顔がコピーの周囲に並ぶハートフルなウェブ広告が表示される。これがKINCHOの「O-type」の「おめでとう! コロナに打ち勝った場合!。」を選択すると「2020年10大ニュースの8位くらいには入るんじゃないカナ。(ひかえめに言って)」の文字が表示され、安心感があるユーモアなウェブ広告が出てくる。
この広告は大きな反響を呼んだ。KINCHOのウェブサイトにはアクセスが殺到し、一時つながりにくい状態になったほどだ。SNSに好意的な書き込みも多数、寄せられた。不安感が増す中で「正直で潔い」「捨て鉢」「コロナを逆⼿に取ってKINCHOらしい」などと評価された。通常であれば1ページで済む新聞広告の制作費は今回、ウェブの6ページ分が加わったものの、それだけの効果はあったようだ。
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