新型コロナウイルスは、人々の生活のあらゆる面に大きな爪痕を残した。それを受け、アフターコロナ/withコロナ時代の消費を占うのが本特集だ。4回目は住まいを中心とした生活に着目する。取材から浮かび上がったのは「書斎」「庭付き一戸建て」「マイカー」といった昭和を思わせるキーワード。今後、この3つについて消費者ニーズが急速に高まる可能性あるが、背景にある事情は昭和の時代とは大きく異なる。

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withコロナ時代の住まいはどう変わるのか(写真/shutterstock)
withコロナ時代の住まいはどう変わるのか(写真/shutterstock)

 「50年ぶりに日本社会は“職住融合”に戻るかもしれない」。立命館大学 産業社会学部の筒井淳也教授は、withコロナ時代の社会をこう占った。

 筒井教授は続ける。「かつての日本は自営業が多く、職住が一体化していた。変化したのは1950年代、男性労働者の会社員化が進んでから。住居から離れた職場に毎日通勤するようになり、以来、それが50年以上続いてきた」。この間に共働き家庭の増加や働き方改革の提言などもあったが、職場と住まいの関係はほぼ変わらなかった。

 この状況を一変させたのが、新型コロナウイルスだ。感染が拡大し、全国を対象に緊急事態宣言が出されると、企業のテレワーク対応は急拡大。緊急事態宣言が解かれた後も、社員の在宅勤務を継続する企業もある。家で仕事をすることが当たり前の時代が再びやってきたのだ。

よみがえる書斎ニーズ

 そんな中、再び注目されているのが「書斎」だ。といっても、昭和のドラマに登場するような格調高いものではない。仕事に使える小ぶりな個室や居室の片隅にしつらえたスペースのようなものだ。

 旭化成ホームズくらしノべーション研究所の松本吉彦顧問は「リビングなど家族で過ごす空間とつながりを持ちつつも、仕事に集中できるスペースが今後は求められる」とみている。「場合によっては、誰かの専用スペースでなくてもいいだろう。お父さんやお母さんが集中して仕事をするときは仕事部屋として、子供がオンラインで授業を受けるときは勉強部屋として、家族で共用する“書斎”もあり得る」。

 書斎を売りにした家づくりに取り組む企業も既に出てきた。築古賃貸不動産のリノベーションを専門に手掛けるエイムズ(東京・中央)は2020年5月末、「書斎リノベーションパッケージ」の提供を開始した。居室の一部に机や棚、扉を作りつけたり、照明やコンセントを増設したりすることで、書斎として使えるようにする施工プラン。6畳間で60万円からが基本だが、「押し入れやクローゼットなどの小さなスペースでも対応できる」(同社コーポレート担当の小泉秀美氏)。リノベーションした後、書斎として使わない場合は、ウオーク・イン・クローゼットとして使用することも可能だ。

エイムズが過去にリノベーションを手掛けた書斎スペース(写真提供/エイムズ)
エイムズが過去にリノベーションを手掛けた書斎スペース(写真提供/エイムズ)

 「リノベーションの際、これまで細かな要望が多かったのはキッチンや洗面。生活に直結するし、こだわりを反映しやすいから。そこに新たな生活需要として、書斎が入ってきた」と小泉氏。新型コロナで在宅勤務が増えたのを受け、書斎があることが賃貸の売りになると考える賃貸オーナーもいるという。サービス開始から1カ月弱で成約数は2件。「年内に15件は成約したい」(小泉氏)と目標を掲げた。

 新築物件を扱う企業でも類似のビジネスが生まれている。三菱地所レジデンスは20年6月、新築分譲マンションに同社が開発した木製家具「箱の間」を有償で設置するオプションプランの提供を開始した。箱の間は棚やベンチ、可動式のテーブルが一体化した商品で、価格は62万円(税別)から。これを置くことで、居室の一画が簡易的な仕事スペースになる。それとは別に、ウオーク・イン・クローゼットなどの収納をテレワーク用の小部屋に無償で変更するメニュープランも設けている。こうした動きは、他の不動産事業者にも広がりそうだ。

「箱の間」は三菱地所レジデンスが2019年9月から販売している。価格は67万円と62万円の2タイプある(いずれも税別、写真提供/三菱地所レジデンス)
「箱の間」は三菱地所レジデンスが2019年9月から販売している。価格は67万円と62万円の2タイプある(いずれも税別、写真提供/三菱地所レジデンス)

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