新型コロナウイルスの感染拡大以降、動画サイトの利用が急増。さらに次世代通信規格「5G」のサービス本格化によって、動画マーケティング市場は具体的にどのように変化するのか。5回にわたる連載では大手企業の事例から、次世代の動画マーケティングの可能性を探る。
2020年3月23日にKDDIがauの5G商用サービス開始を発表した。これで楽天を除く大手3社のサービスが出そろったことになる。そして、3月25日のNTTドコモのサービス開始を皮切りに、大手3社の5Gサービスが順次開始予定だ。
5Gの普及により、動画市場はどのように変化していくのだろうか。一般的には5Gの普及によってインターネット動画が高画質・低遅延になることが期待されている。4Gとスマートフォンが日本中に普及した結果、外出時にも安定して動画を視聴できるようになった。19年にニールセン デジタルが発表した「Digital Trends 2019上半期」によれば、スマホ利用者1人当たりの月間動画視聴時間は、15年の1時間51分から7時間13分へと、4年間で約4倍に成長した。
5Gサービス開始によって、より高画質で安定したサービスが供給されれば、それに伴い1人あたりのインターネット動画視聴時間はさらに増加していくことは容易に予想できる。ただし、高画質・低遅延であることだけで、動画市場全体が急激に活況になるとは思えない。5Gの普及により、動画市場がこれまで以上に広がり続ける理由は「データ容量の無制限化」が進むことがより大きなファクターと言えるだろう。
19年にソフトバンクが実施した調査によると、スマホ利用者の約4割がモバイルインターネットの利用超過による速度制限を経験している。速度制限になる層は「15~19歳の女性」「20代の男性」が多く、約8人に1人がほぼ毎月速度制限になっている。また、速度制限を受けている人ほど、動画アプリ全般の使用傾向が高くなっていることも同調査で分かっている。これらの結果は、速度制限を受けている人は、スマホ上で動画を視聴したいが、容量制限により視聴できていないことを意味している。
5Gと新型コロナの影響で動画メディアの価値向上
これが5G普及で大きく変わりそうだ。キャリアが通信速度制限を設定している大きな理由の1つは、利用者が大量にデータ通信を行うとネットワークが破綻してしまうためだ。このキャリア側の事情による制限は、5Gが今まで以上に高速・大容量のネットワークになることで理論上は解決する。実際に20年3月末に出そろった各キャリアのうち、ドコモは「データ量無制限キャンペーン」を打ち出しており、KDDIも「データMAX 5G」というデータ使い放題をうたうプランを発表している。
また、新型コロナウイルスの感染拡大は、結果的に動画市場拡大を押し上げている。人々は在宅を余儀なくされ、多くの映画館やアミューズメント施設が休業に追い込まれる中、自宅での余暇時間が動画配信サービスの利用に費やされている。その結果、米ネットフリックスの株価は過去最高値を記録。米グーグルはインターネット動画の視聴数の増加によるネットワーク全体の負荷が予想されることから、動画配信サービス「YouTube」のデフォルト再生画質を一時的に下げることを発表した。
5Gの普及とコロナ禍における急激な動画配信サイトの利用者増加。これらの理由により、動画配信サイトのメディアとしての価値はさらに高まるだろう。とはいえ、率直に言えば、決して新しいテクノロジーが目白押しというわけではない。これまでリアル重視で日本において定着に時間を要してきた技術が、イベント自粛や在宅勤務の長期化が予想される中、その利便性と効率性に対する理解が日本でも瞬く間に進みつつある。
広告付き動画サービスが急増?
米国では5G時代の到来を見越し、新たな動画配信サービスが次々に立ち上がっている。19年12月に米国でサービスを開始し、日本でも20年6月にウォルト・ディズニー・ジャパンとNTTドコモが共同で開始した「Disney+」や、デジタル技術見本市「CES2020」で大きな注目を浴び、20年4月に開始された次世代モバイル動画サービス「Quibi」などはその一例。これらのネット経由で番組や動画コンテンツを提供するサービスは、OTT(オーバー・ザ・トップ)と呼ばれている。米国には、広告を視聴することで動画コンテンツを視聴できるビジネスモデル「AVOD(アドバタイジング・ビデオ・オン・デマンド)」を採用したOTTが多数存在する。日本では在京民放5社が共同提供するスマホアプリ「TVer」が代表的なAVODとなる。
コロナ禍でOTTの動画サービスの利用が加速することで、メディアとしての価値が大きく高まる。そうしたサービスの広告活用は動画マーケティング市場において、重要性がさらに増す。
新型コロナの感染拡大以降、オンライン動画によるマネタイズにかじを切り始めているのがスポーツや音楽などのエンターテインメント領域だ。19年米国のスポーツ業界が放映権で得た収益の総額は209億ドルとなり、既にチケットやスポンサーシップ、グッズ収入を上回った成長率を見せている。
日本においても15年に設置されたスポーツ庁の下、16年に「スポーツの成長産業化」が官民戦略プロジェクトに採用され、既に国策化している。このプロジェクトでは、25年までにスポーツ市場の規模を15兆2000億円へ拡大することを目標としているが、イベント自粛の状況で当面はチケット収入が期待できない状況だ。そこでOTTを含むネット上の動画配信がマネタイズの手段として再注目されることになるだろう。
また、ライブ配信も5Gにより市場拡大が予想されている。日本では、インターネットライブ配信を利用して商品を販売するライブコマースが中国や韓国に比べ定着しているとはいえない。まだまだ一般的な知名度は低いものの、「SHOWROOM」や「17 Live」といったライブ動画配信サービスは着実に利用者を増やしている。それらのサービスで日夜動画を配信する「ライバー」と呼ばれる視聴者を多く抱える配信者の存在感が増せば、サービス拡大が遅れていた日本でもライブコマースが離陸しそうだ。
本連載では、4Gとスマートフォンの普及により大きく成長してきた動画市場が、5G普及や新型コロナウイルスによってどのように変化し、それによって動画マーケティングはどのように変わっていくのかについて、今回挙げた「動画広告」「イベント」「ライブ配信」3テーマで全5回にわたって掲載していく。次回は動画広告のトレンドについて詳しく解説していきたい。
・スマートフォン利用者1人当たりの月間動画視聴時間のグラフを修正しました。[2020/6/17 13:30]