本連載ではデジタル革命がもたらす「顧客価値の変化」「ビジネスモデル変化」を紹介してきた。これらの変化は、決して非連続な現象として出現しているものではない。すべてはデジタル革命の大きな潮流の中で、「オンラインとオフラインを融合させるチャネル構造の進化」を前提とし、連続的に表出した現象なのだ。最終回では、「オムニチャネル」と「OMO(オンラインとオフラインの融合)」の違いについて筆者らの考えをまとめ、ビジネスモデル変革の基点となるチャネルの重要性を改めて確認しておこう。
コロナ禍においては、顧客変化に伴い、筆者らの著書『世界最先端のマーケティング』(日経BP)で示した「チャネルシフト」が企業の新しい戦い方として顕在化したと言えるだろう。書籍の中で定義した「チャネルシフト」とは、以下の3つの戦い方だ。
(1)オンラインを基点としてオフラインに進出する
(2)顧客とのつながりを創り出す
(3)マーケティング要素自体を変革する
前著の出版から現在までの間に起こったことは、この定義から外れたものではない。新型コロナウイルス感染症拡大という激烈な環境変化に後押しされ、各項目の重要性がより高まっていった。筆者らはこの4年間の進化と取り組む企業の挑戦を、実務現場で支援する過程で目の当たりにしてきた。
2018年にはチャネルシフト、19年には顧客とつながるためのデータ基盤、20年以降にはそれらを踏まえたビジネスモデルの変革に関わる課題に多く向き合うことになった。課題そのものは変化してきたが、その基点となるのはやはりチャネルの在り方だったのだ。
ビジネスモデル変革をもたらした「チャネルシフト」
コロナ禍において多くの企業が取り組んだのは、急激なオンラインへのシフトだった。しかし、その多くは単にオフラインとオンラインでそれぞれ接点を用意したという対応にすぎなかった。対して、米アマゾン・ドット・コム傘下の大手スーパーマーケット「Whole Foods Market」などが以前から進めていたのは、「OMO」への対応だ。オンラインでの購入を前提とした「BOPIS(Buy Online Pick-up In Store=店舗受け取り)」への対応や、デリバリーに特化したネット販売専用物流センター「ダークストア」に店舗を転換させるなどOMO対応を進めた。
単なるオンラインとオフラインの双方を用意するというチャネルの多様化、つまり「オムニチャネル」にとどまっていたのか、OMOを実現できていたかの違いで、コロナ禍での顧客体験はかけ離れたものとなった。このオムニチャネルとOMOの違いについて、筆者らの考えを「チャネルシフト・マトリクス」を用いて明確に示しておきたい。
「オムニチャネル」と「OMO」の違いとは
以下は、オムニチャネルを示すチャネルシフト・マトリクスだ。横軸は、顧客が購買行動における商品などの「選択」を行う場を指す。顧客が情報を探索し、購入商品を選ぶ場が、オンラインにあるのかオフラインにあるのかで分けている。一方、縦軸は顧客が「購入」を行う場を指す。顧客が商品購入を完了する場が、オンラインにあるのかオフラインにあるのかで分けている。
コロナ禍前、あるいはコロナ禍中に、多くの企業がオフラインに持つ店舗などのリアル顧客接点から、ECサイトやスマートフォン向けアプリといったデジタル顧客接点へのシフトを急速に進めた。ここまではオンラインとオフラインの双方に顧客接点を持ち、在庫などを一括して管理する「オムニチャネル」の状態を実現した状態であったと言える。
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー