前回までに解説した米アマゾン・ドット・コムが目指す「顧客基点の循環型マーケティングモデル」に沿って、今回はさらに具体的な事例を見ていくことにしよう。米オンラインフィットネス事業のペロトン・インタラクティブはまさに、この循環型マーケティングモデルを実現している企業だ。同社のビジネスモデルを独自のフレームワークで分解して、その強さの理由を解説しよう。

米アマゾン・ドット・コムのスーパーマーケット「Amazon Freshの外観。同店はスマートフォンアプリと連係して買い物ができる「スマートレジカート」を導入しているのが特徴だ
米アマゾン・ドット・コムのスーパーマーケット「Amazon Fresh」の外観。同店はスマートフォンアプリと連係して買い物ができる「スマートレジカート」を導入しているのが特徴だ
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 まずは顧客基点の循環型マーケティングモデルを改めて説明するうえで、アマゾンのビジネスモデルの要諦を列挙する。それは以下の4点に整理できる。

(1)顧客にとって「つながる価値」の明確化(Engagement)
(2)デジタルを前提とした顧客接点(Place)
(3)顧客を個別認証するデジタルID、データ、システム(Data System)
(4)顧客に最適かつ直接的に提案するCRM(CRM Program)

 第7回でも紹介したが、このポイントを図式化したのが以下となる。デジタルを活用した独自の顧客接点(Place)を持ち、豊富なサービスで顧客とのつながり(Engagement)を築き、それに基づいてパーソナライズした最適な商品サービス(Product)、課金方法(Price)、促進施策(Promotion)を提案し続ける循環モデルが成長の源泉だ。このフレームワークを「Engagement 4P Ver.2」と呼ぶ。

Engagement 4P Ver.2
Engagement 4P Ver.2 デジタルを活用した独自の顧客接点(Place)によって顧客とのつながり(Engagement)を築き、それに基づいてパーソナライズした最適な商品サービス(Product)・課金方法(Price)・促進施策(Promotion)を提案し続ける
デジタルを活用した独自の顧客接点(Place)によって顧客とのつながり(Engagement)を築き、それに基づいてパーソナライズした最適な商品サービス(Product)・課金方法(Price)・促進施策(Promotion)を提案し続ける
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 アマゾンはこのモデルを多様な業界に持ち込むことで、既存の業界競争ルールを破壊しようとしている。それを食品業界で実現したのがこの連載でも取り上げたアマゾン流スーパーマーケット「Amazon Fresh」。同店舗では、「スマートレジカート」という新たな顧客接点をリアル店舗に融合させているのが特徴だ。

 スマートレジカートの詳細については特集の7回目で解説しているため、手短に説明すると画像端末・決済機能が取り付けられたカートだ。レジカートに付いている端末と自身のスマートフォンアプリを連携すると、事前に「Amazon.com」で作った買い物リストがカートのスクリーンに表示されるため、それを見ながら買い物ができる。

 スマートレジカートでは購買行動に伴って、ECサイトではおなじみになっている「この商品を買った人はこの商品も購入しています」、あるいは「この野菜にはこのドレッシングがお薦めです」といった具合に、即座にパーソナライズされたリコメンド商品が情報(Promotion)として提案される。

 アマゾンは「あらゆるものがそろう」ことが顧客価値の1つになっている。販売する商品(Product)数は膨大だ。Amazon Freshでも多くのナショナルブランド製品と共に、アマゾンが買収した米大手スーパー「Whole Foods」やアマゾンのPB(プライベートブランド)も数多く展開している。この膨大の商品数の中から、オフラインのAmazon Freshでの購買中にもリアルタイムな提案として顧客に届けるのがアマゾンらしさだろう。

 まさしく、冒頭で解説したアマゾンのビジネスモデルのフレームワーク、すなわちEngagement 4P Ver.2をAmazon Freshで体現していると言えよう。Engagement 4P Ver.2の実現には、図の左側にある「顧客接点(Place)」と「顧客価値(Engagement)」がしっかりとつながるように、CRMとデータシステムを通して顧客情報を常時管理し、顧客に残りの3P(Product、Price、Promotion)を提案する機能の稼働を続けることが求められるのだ。

 このモデルによって顧客とのつながりがさらに強くなれば、より価値の高いサービスの提供につながり、リピート購入や継続的な利用につながる。この循環型モデルの破壊力に気づいているのはもちろんアマゾンだけではない。オンラインフィットネス事業の米ペロトン・インタラクティブも、オフラインのジムを基点とした旧態依然としたフィットネス業界に、デジタルを活用した顧客とのつながりによって、Engagement 4P Ver.2を実現している企業である。

ペロトンの価値を理解する「カスタマー・バリュー・ピラミッド」

 ペロトンの顧客価値を理解するうえで参考になるのが、デジタル時代の顧客価値を示すフレームワーク「カスタマー・バリュー・ピラミッド」だ。このフレームワークは、顧客と企業のつながりを「機能価値」「体験価値」「つながっている価値」という3つの層で可視化したもの。この3つが融合して、初めてカスタマー・バリュー・ピラミッドは完成する。

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