中国ネットサービス大手の騰訊控股(テンセント)は2022年12月19日、その傘下のAI(人工知能)研究組織であるテンセントAIラボが開発し、プレーヤー同士の連携したプレーが可能なAIプログラム「絶悟(ジュエウー)」を病理学診断に応用したAIプログラム「絶悟RLogist(ジュエウーRロジスト、Reinforcement LearningとPathologistの造語)」を発表した。これにより、AIの強化学習機能を、より大きなサイズの病理画像のスキャンに利用し、病理医による診断の意思決定をサポートすることができるという。

AIプログラム「絶悟RLogist」を活用した病理学診断の現場の様子(画像はテンセントのニュースリリースから)
AIプログラム「絶悟RLogist」を活用した病理学診断の現場の様子(画像はテンセントのニュースリリースから)

従来の病理学診断における機械学習の課題とは

 機械学習は現在、医師をサポートするため既に活用されている。その主流な方法は、医師が画像に写っている病巣部分をマーキングし、それをコンピューターが機械学習していくというものだ。学習が完了すれば、コンピューターに1枚の画像を提出するだけで、コンピューターがその画像をチェックし、適切な回答を与えてくれる。

 しかし、この方法で実際にカバーできるのは、CT(コンピューター断層撮影)や眼底写真といった面積が特別大きくない画像だけである。10億ピクセルほどになるスライドガラス標本の全体や、一部をデジタル画像化した高解像度組織切片「WSI(Whole Slide Imaging)」の場合、この方法ではその画像をチェックするのに数十分を要し、現場での実用化には大きな制約がある。例えば、大規模なスクリーニング検査や手術中に画像を急いで評価するといったシーンでは、実用的ではない。また、病巣のありかを示す病変域はまばらに点在していることが多く、これが診断の相関性の弱さやデータの取り扱いに伴う効率低下などの問題をもたらすという。

スライドガラス標本の全体や一部をデジタル画像化した高解像度組織切片「WSI」とその一部の病変域の様子(画像はテンセントのニュースリリースから、匠新が翻訳)
スライドガラス標本の全体や一部をデジタル画像化した高解像度組織切片「WSI」とその一部の病変域の様子(画像はテンセントのニュースリリースから、匠新が翻訳)

ゲーム向けのAIの力で患者の病巣を発見

 テンセントはそこで、自社のAIプログラムであるジュエウーを、病理学の現場に応用し始めている。これは、テンセントの人気ゲーム「王者の栄光(王者栄耀)」や米マイクロソフトのゲーム「Minecraft(マインクラフト)」のような3D世界の自由な探索を可能にするAIプログラムだ。テンセントは、このAIプログラムに経験豊富な病理医が用いる作業方法を学習させることで、ジュエウーRロジストを開発している。この作業方法とは、まず顕微鏡を通じて、組織切片の全体を低倍率でスキャンし、経験に基づき、病変の疑いがあるエリアを抽出する。同時に、高倍率でそのエリアの細部を観察する。この高倍率と低倍率の顕微鏡の切り替え操作を何度も繰り返すことで、最終的に全ての組織切片の判別と重大な病巣の位置特定を行う。

 ジュエウーRロジストは、次の4つのステップで、病理医の組織切片から病巣をチェックする作業を学習している。1つ目のステップでは、ジュエウーRロジストは病理学の知識を学習する。病巣を認知し、病巣に遭遇したときにそれを識別できるようにする。2つ目のステップでは、病理医が行っている作業方法を学習する。その作業は、まず顕微鏡を使用し、低倍率で組織切片全体をチェック。その後、最も病巣の疑いがあると同時にさらなる検査が必要な位置を探し出したのち、高倍率でこの特定の位置を観察するというものだ。3つ目のステップでは、この高倍率顕微鏡を通じてこの位置が病巣ではないと判断した場合、その結果の記録を残し、低倍率顕微鏡が今後より早く検査を行えるように学習する。そして、4つ目のステップは、作業の繰り返しである。その他の最も疑わしい位置を特定し、高倍率顕微鏡でその位置を検査する。この検査プロセスを、病巣を発見するまで繰り返し行う。

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