日本政策投資銀行(DBJ)産業調査部が、産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を読み解く連載。今回は、インターネット上でアバターなどを介して参加者同士の交流が可能な「メタバース(仮想空間)」のトレンドを解説する。ゲームの世界だけではなく、ビジネスのコミュニケーションにも波及する、そのインパクトとは。

にわかに注目を集める「メタバース(仮想空間)」は何を変えるのか?(写真/Shutterstock)
にわかに注目を集める「メタバース(仮想空間)」は何を変えるのか?(写真/Shutterstock)

 「メタバース」という概念が注目を集めている。この概念は、SF作家ニール・スティーブンソンによる1992年の小説『Snow Crash』で登場するインターネット上の仮想空間がルーツといわれている。この小説では専用の機器を着用し、オンライン上でアバターを操ることにより現実世界と同じように生活体験をする様子が描かれた。

 また、21年公開の映画『竜とそばかすの姫』がヒットしている細田守監督が手掛けた『サマーウォーズ』(09年公開)でも、「OZ」というインターネット上の仮想世界が登場する。OZでは、アバターを介してショッピングやビジネス、各種の行政手続きなどができるが、アバターが縦横無尽に飛び回ったり、OZで生じたトラブルが現実世界にも影響を与えたりする点は、メタバースの将来的な姿を想起させるものだった。

 このように、かつては小説や映画の中で描かれていた世界が、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)技術によって現実のものになろうとしている。メタバースを構築するためには、AR/VRの技術が必要不可欠であり、その発展がメタバースの実現を加速すると期待されている。

 そもそもAR(Augmented Reality)とは、目の前にある現実世界にコンピューターで作られた映像や画像を重ね合わせ、現実世界を拡張する技術だ。また、VR(Virtual Reality)とは、現実にない世界、または体験し難い状況をCG(コンピューターグラフィックス)によって仮想空間上に作り出す技術である。

 実はAR/VRのコンセプト自体は50年以上の歴史があり、1960年代後半に米ユタ大学のアイバン・サザランド教授がCGの将来の姿として提案したのがはじまりといわれている。89年に「バーチャルリアリティー(VR)」という言葉が使われるようになり、その後90年代には世界的なVRブームが訪れた。

 しかしながら、ユーザーの動きに合わせて映像を動かすセンサーの性能不足や、それに伴い生じる吐き気や目まい(いわゆる「VR酔い」)などを背景として、一般に定着するには至らなかった。それが近年では、デバイスの小型化、高速・大容量通信の発達、センサー技術の高度化といった多くの技術革新により、AR/VRに対する期待が再び高まっている。

 後述するように、AR/VRは今までのコミュニケーションのあり方を変え、新しい経済圏を創出する可能性が高い。そのため、グーグル、フェイスブック、マイクロソフト、アップルなどのメガIT企業は、スマートフォン以降の次世代プラットフォームになり得るものとして、AR/VRに対してハード・ソフト両面から巨額の投資を行っている。

 フェイスブックCEO(最高経営責任者)のマーク・ザッカーバーグ氏が、2021年7月22日付のニュースサイト「The Verge」のインタビューにおいて、今後5年以内に同社が「『ソーシャルメディア企業』から『メタバース企業』へ移行する」と述べたことも記憶に新しい。AR/VRへの関心を高めた企業は、メタバースを次なるステージとして選び、動き始めている。

「真のメタバース」はまだ存在しない?

 実はメタバースには明確な定義がなく、様々な解釈が存在する。現時点では、「誰もが現実世界と同等のコミュニケーションや経済活動を行うことができるオンライン上のバーチャル空間」と考えて大きな誤りはないだろう。

●メタバースの特徴に関する主な発言の要旨
●メタバースの特徴に関する主な発言の要旨
注/Matthew Ball「The Metaverse: What It Is, Where to Find it, Who Will Build It, and Fortnite」、GamesBeat「Roblox CEO Dave Baszucki believes users will create the metaverse」「Tim Sweeney: The open metaverse requires companies to have enlightened self-interest」より、日本政策投資銀行作成

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