日本政策投資銀行(DBJ)産業調査部が、産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を読み解く連載。今回は、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による最新の報告書の概説と、気候危機という世界共通の課題に対して日本がリーダーシップを発揮しうる領域の1つ、災害レジリエンスの分野について、「防災ISO」の活動を踏まえて最新動向を紹介する。

 東京オリンピック閉会直後の2021年8月9日、気候変動に関する最新調査結果が発表され、世界中の注目を集めた。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による、気候リスクの将来予測だ。産業革命前と比べた世界の気温上昇が2021~40年の間で1.5度に達し、前回18年に公表された将来予測よりも10年ほど早く気候危機が訪れるという内容だった。また、人間活動の温暖化への影響について、科学的に「疑う余地がない」と断定した。

 今回、IPCCは、既存の気候予測モデルを改良し、地球観測衛星から新たに北極圏のデータも活用した。最新の科学的見地とデータに基づいて解析を行っている。要旨は、脱炭素が進んだ最善の場合でも2041~60年に1.6度上昇、化石燃料への依存が続く最悪の場合は2041~60年に2.4度上昇、2081~2100年に4.4度上昇するという予測である。

 例えば、代表的な1.5度上昇シナリオでは、夏に北極海の海氷が溶け、珊瑚礁は70~90%が消失、昆虫類の6%、植物類の8%が生息域を失い、世界中の主要河川の洪水が100%発生することが見込まれる。

 また、この気温変化に関連して、熱波などの極端な高温、極端な大雨、農業に影響を与える干ばつ、そして海面上昇について、驚くべき定量予測が示された。以下がその概要だ。

【IPCC気候リスクの将来予測の概要】

  • 二酸化炭素排出量が今後数年で削減されなければ、あらゆるシナリオで2040年までに気温が1.5度上昇する
  • 100年に1度起こっていた海面水位の上昇が、少なくとも毎年起こる
  • 90%超の地域で干ばつが増える
  • 2100年までに約2メートルの海面上昇、2150年までには5メートルの海面上昇が発生し、沿岸エリアに居住する何百万人という人を脅かす

 まるで映画の世界だが、既にこの予測の一部は現実のものとなりつつある。21年夏、日本だけでも、突然の豪雨、台風経路と規模、そして連日続く酷暑など、過去最高を記録する日が続いている。米国カリフォルニア州やオレゴン州の大規模な山火事、ドイツの大洪水などの発生も記憶に新しい。このような異常気象が、さらに連発・極端化し、私たちの生活や経済活動を脅かす将来が待っているというのがIPCCの予測だ。

 これを受けて、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、「これは人類全体にとっての非常事態である」と発言。21年11月に開催予定のCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)26の議長国である英国のジョンソン首相は、「目を覚まさせられる内容だ」と、危機感をあらわにした。

気候危機への「予防」対策を牽引する欧州

 最近よく耳にする脱炭素関連の取り組みは、こうした気候危機の発生を「予防」することが目的だ。これを牽引してきたのは欧州勢であり、CO2削減の数値目標を定めた15年のパリ協定を武器に、様々な分野でルール形成をしてきた。この動きを、コロナ危機からの復興テーマとしてさらに加速させている。

 コロナ危機対応に際して日本政府の経済対策は、現在の事業と雇用を維持することで、国民の生命と暮らしを守る最大限の努力をしている。しかし、欧州勢は、これを奇貨として、「グリーンリカバリー」という復興政策の名の下に、脱炭素に向けた経営改革・産業の構造改革に打って出た。

 例えば、フランスでは、エアライン事業者の救済に際し、競合する陸路交通が存在する場合は航路を撤退することを事業者に求めた。列車を利用できる区間の航空機利用を減らして人流・物流を陸路にシフトすることで、脱炭素に向かうための交通インフラ改革を仕掛けたのだ。まさにアフターコロナを見据えた、社会・経済・産業のトランスフォーメーションである。

 それらを横目にして日本は、21年6月にコロナ危機からの日本の復興国家戦略「日本の未来を拓く4つの原動力:グリーン、デジタル、活力ある地方、少子化対策」を示した。ここでの2本柱はグリーンとデジタルであり、それらへの投資が経済成長と一体不可分になるとした。

脱炭素分野で期待される洋上風力発電も、欧州事業者が主導している現実がある(写真/Shutterstock)
脱炭素分野で期待される洋上風力発電も、欧州事業者が主導している現実がある(写真/Shutterstock)

 しかし、この脱炭素分野、気候危機への予防分野は、金融を含むあらゆる分野で欧州が仕掛けた成長戦略の枠組みで設計されている。石炭から再生エネルギーへのシフトは真っ当な話だが、それを進めれば進めるほど、関連の資機材供給は欧州事業者となる。世界中のどこでも、再エネを導入すればするほど潤うのは欧州事業者という、サプライチェーンの設計まで成されている。

 例えば洋上風力の事業者は、欧州電力資本を主体としており、世界の発電量の5割を超えている。既存産業の自動車部品サプライヤーや石油・ガス関連事業者からの業態転換も多く見られる。

 賛否はあるが、これは常に世界市場を意識した欧州勢のリーダーシップの成果といえるだろう。これに対して日本では、21年5月に東芝が米ゼネラル・エレクトリック(GE)と戦略提携し、国内の洋上風力発電市場の成長を加速させる動きがある。また、政府は2兆円のグリーンイノベーション基金を準備し、脱炭素に向けた後押しをしている。

 ただ、気候危機への「予防」に関連するアジェンダ設定、サプライチェーン設計、国際機関を活用したルール形成状況を踏まえると、この分野でこれから日本勢が挽回できるのか、注視すべきポイントである。

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