日本政策投資銀行(DBJ)産業調査部が、産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を読み解く連載。今回は、アフターコロナのニューノーマル(新常態)を見据えた動きとして、遠隔医療を活用した「医療ツーリズム」の新たな方向性をアジア各国の事例から探る。

(写真/Shutterstock)
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 医療ツーリズムとは、「医療を受ける目的で他の国へ渡航すること」を意味する。2000年初頭より、インターネットの普及や国際交通網の発達を背景に拡大してきた。初期の医療ツーリストの渡航目的を見ると、「最先端の医療技術」や「より良い品質の医療」を求めて渡航するツーリストが約7割を占める。その他、各国の医療事情に起因するものとして、治療を受けるまでの時間がかかる英国やカナダのような「待機時間の解消」を目的とするケースがある。また、米国のように多数の無保険者がおり、雇用者側が医療保険の負担軽減のために医療費の安い海外での治療を推奨する「低コストの医療」を求めるものなどが挙がる。

 2000年代は医療ツーリストの渡航先として、その理由にかかわらずアジアが目的地となる割合が高く、新興国から先進国への渡航に加え、先進国から新興国へ向かう新たな流れが起こった。

 医療ツーリストを受け入れるアジアでは、高水準な治療の提供を中心とした「シンガポール型」と、観光と医療をセットとする「タイ型」の2つのタイプが存在し、系列病院を多く持つ民間病院の活躍により受け入れが進んだ。また、これらの主要な医療ツーリストを受け入れる国々の多くでは、国策としてのプロモーション活動や制度改革を行うなど後押しがあった。

 足元では、新型コロナウイルス感染症の影響により人々の移動が制限される中、医療ツーリズムに注力してきたシンガポール、マレーシア、タイなどの民間病院は外国人患者の減少で業績の悪化傾向が見られる。新型コロナの感染収束が見極めきれない状況で今後の先行きは懸念されるが、アジアの医療ツーリズムではアフターコロナのニューノーマル(新常態)を見据え、遠隔医療の活用を模索する取り組みが進みつつある。

今後は5G活用で「遠隔手術」も可能に

 遠隔医療は、新型コロナをきっかけに世界各国で普及が期待されるサービスの1つだろう。アジアで医療ツーリストを受け入れる病院の中には、コロナ禍以前より遠隔医療(テレメディスン)をマーケティングやアフターフォローの際に活用してきた。

遠隔診療のイメージ(写真/Shutterstock)
遠隔診療のイメージ(写真/Shutterstock)

 例えば、アジアの中で大きなヘルスケアグループの1つで、心臓手術や人工関節手術に定評があるインドのアポロ病院グループは、院内にテレメディスン専用の拠点を設置している。そこでは、医師とコーディネーターによる事前の無料コンサルテーションが1日に400~500件程度行われている。この無料コンサルの提供先はアフリカなどのマーケティング対象エリアで、現地の患者がアポロ病院の医師と話すことが患者を呼び込むための重要な手段となっている。

 また、韓国で初めて西洋式医療を導入したセブランス病院では、患者の帰国後に遠隔診断によるフォローをするなど、来院患者の満足度を確保し、良い口コミにつなげるべく様々な策を施している。

 なお、セブランス病院は、ロボット手術に強みがあり、05年には手術支援ロボット(ダビンチ)の東南アジア向けのトレーニングセンターとなっている。センターで研修を受けた医師が母国に戻った後、難しい手術の場合、セブランス病院へ患者を紹介するなど、帰国後もコミュニケーションを続けることで、東南アジア地域でのネットワークづくりの一助になっている。今後は5Gで遠隔操作などの遅延が解消されることで、ロボットを活用した遠隔手術も成長が見込まれる分野だろう。

 このように海外とのネットワークを構築するために新型コロナ前より遠隔医療の活用事例が見られる中、アジアの国々ではアフターコロナを見据えて国の政策との一体的な取り組みや、異業種との連携などによる遠隔医療の新しい試みが起こりつつある。

先行するシンガポール、インド、マレーシア

 コロナ禍で人々の移動が制限されインバウンドの来院がままならない中、アジアの医療ツーリズムでは遠隔医療の新しいサービスが模索されている。

 シンガポールでは、従来は医療を提供する病院やクリニックといった施設ごとにライセンスを発行していたが、近年の医療環境の大きな変化に伴い、制度改正を行った。物理的な施設で提供されていた医療がモバイルやオンラインチャネルを使った新しいサービスへ移行されつつある点を踏まえ、サービスごとにライセンスを付与する「ヘルスケアサービス法」が20年に成立。遠隔医療サービスについては、22年よりライセンス付与の開始を予定している。

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