日本政策投資銀行(DBJ)産業調査部が、アフターコロナ時代のデジタルトランスフォーメーション(DX)を読み解く人気連載。今回は、コロナ禍で働き方の変化が進む中、注目を集めている「ワーケーション」の可能性について解説する。
ワーケーションとは、ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた言葉だ。2020年7月27日に開催された観光戦略推進会議(第38回)の観光庁資料「旅行消費の増加及び休暇分散に向けた取組について」では、「テレワークを活用し、リゾート地・温泉地等で余暇を楽しみつつ仕事を行う」ことと定義されている。
コロナ禍による在宅勤務の広まりは、まさに足元でワーケーション推進の動きを後押ししている。本稿では、観光産業の中核である宿泊事業とコロナ禍で変容する企業の働き方の2点を整理した上で、地方創生につながるワーケーション推進の在り方について考察したい。
自明のことだが、コロナ禍が世界の観光産業に与えた影響は計り知れない。国連世界観光機関(UNWTO)によると、20年1月から8月までに海外旅行をした人は、前年同時期に比べ7億人減少、その損失額は約76兆3700億円になる。これは、リーマン・ショック後、09年時点の損失額の約8倍にも及ぶドラスチックな数字だ。
そして当然、新型コロナの影響は日本国内にも及んでいる。日本政府観光局(JNTO)の調査によると、海外渡航制限などにより、インバウンドは4月以降ほぼゼロの状態が続いた。国内旅行市場も同様の傾向で、観光庁の調査によると、20年1~3月期の日本人国内旅行消費額は前年同期比でマイナス21.7%、4~6月期はマイナス83.3%と、非常に激しい落ち込みだった。
20年5月下旬の緊急事態宣言解除以降、移動自粛の全国的な緩和や「Go To トラベル」キャンペーンによる後押しもあり、足元では観光地に客足が徐々に戻りつつある。しかし、コロナ前の水準にまで需要を戻すには程遠い。中長期的には人々の移動自粛が再び求められた場合も想定し、宿泊事業者の客室販売ターゲットとして従来の一般旅行客とは異なる層にアプローチしていく必要が出ている。
一方で、コロナ禍によって変容した企業における働き方を確認する。東京商工リサーチの第5回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査によれば、大企業2907社、中小企業1万5095社を対象に、コロナ禍でテレワークを実施した企業は56.4%だった。
“推進派”が多い大企業では、例えば富士通が国内グループの従業員約8万人のうち、製造拠点や顧客先常駐者などを除く従業員を基本的にテレワーク(在宅勤務)とする他、22年度末までにオフィス規模を現状から半減する方針を示している。また、みずほフィナンシャルグループでは、20年11月から順次、本社勤務の約1万2000人の従業員のうち25%を対象に、在宅勤務も含めた遠隔勤務を前提とする働き方を採用するという。
テレワークを本格的に導入する企業は、新たな働き方が企業経営の観点からメリットがあるという認識を持っていると考えられる。社会全体で見た時、こうした価値観はアフターコロナ以降も定着していくだろう。さらに言えば、労働環境さえ整っていれば、自宅やサテライトオフィスでの勤務を皮切りに、場所にとらわれない柔軟な働き方に対するニーズがより高まるかもしれない。これは宿泊事業者にとって、新たな顧客層獲得につながる動きだ。
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