日本政策投資銀行(DBJ)産業調査部が、アフターコロナ時代のデジタルトランスフォーメーション(DX)を読み解く人気連載。今回は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、重要性が増している製造業のDX、「スマートファクトリー」の最新動向を解説する。普及に向けた課題とは?
新型コロナウイルス危機により、製造業のグローバルサプライチェーンは寸断され、各国の工場は断続的な操業停止に追い込まれた。需要の急減や工場の閉鎖により、生産計画などの迅速な見直しが必要になる中で、各生産拠点の情報収集が円滑に進まなかった。実際に多くの企業から、「生産拠点の分散によりリスク対応したと思っていたが、部品の調達まで情報管理できていなかった」「消費地生産など、生産拠点の再編に関わるコスト増加をデジタル技術による情報管理の効率化で対応したい」といった、サプライチェーンの体制構築や製造の柔軟性を高めるための情報管理に関する課題が聞かれた。
経済産業省の2020年版ものづくり白書によると、海外拠点の生産プロセスに関わるデータ収集に取り組む企業は1割程度というデータが示されている。これは、海外拠点の機器の稼働状況や部品や在庫の状況をタイムリーに収集している企業が、依然少ないことを意味している。コロナ禍においては、迅速な経営判断に必要なデータの情報収集がうまくいかず、生産計画の見直しなどに時間を要したものと推察される。
製造業におけるIoTの盲点
最近ではIoTという言葉を聞かない日がないくらい、製造業のデジタル化投資は進んでいるのではなかったのか、という疑問が湧く。日本政策投資銀行(DBJ)が20年6月に実施した設備投資計画調査(2020)では、AIやIoTなどを「活用している」と回答した企業は3割程度(回答企業は製造業297社、資本金100億円以上)となり、年々増加しているという結果がみられた。さらに、IoTの活用を「検討している」と回答した企業も含めると、6割超となった。
工場のIoT化には様々な捉え方があり、目指す理想像、目的とする効果や生産品目によって、そのアプローチや取り組みの規模感が異なる。一般に、企業は生産現場における個別の機器や工程の稼働状況をセンサーやカメラなどによって「見える化」し、生産効率化や予防保全を行うことを目的として捉えている場合が多い。これは生産性向上、メンテナンス、省エネなどにつながるものであり、それ自体とても重要である。だが、工場内での局所的な利用にとどまるため(狭義のIoT)、これだけでは冒頭の課題に応えることはできない。
それに対して、「広義のIoT」は、生産現場を中心として、製造システムの上位層にある経営に関わる情報を管理するシステム(IT:Information Technology、情報技術)と、生産機器の制御を行うシステム(OT:Operational Technology、制御・運用技術)が円滑につながっている状態のことをいう。本稿においては、広義のIoTを実現する工場をスマートファクトリーとする。従ってスマートファクトリーとは、工場単体の生産効率を追求するものではなく、生産現場から意思決定者までが神経のようにつながっているイメージである。
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