キリンビールの2021年のヒット商品の一つ、「SPRING VALLEY(スプリングバレー) 豊潤〈496〉」。マーケを担当した吉野桜子氏は、「スプリングバレー」ブランドの立役者だ。型破りの企画を成功させた秘訣はプレゼン。達人のワザから、社内攻略のヒントが見いだせる。
※日経トレンディ2021年11月号の記事を再構成
キリンビールが2021年3月23日に発売した缶ビール「SPRING VALLEY(スプリングバレー) 豊潤〈496〉」(以下、496)が好調に売れている。年間販売目標が160万ケースのところ、約半年で100万ケースを売り上げた。
ブランド名は、キリンが15年に開業した小規模の醸造所「スプリングバレーブルワリー」(以下、SVB)に拠っている。496は、これまで醸造所に併設される飲食店などで提供していたクラフトビールを、多くの消費者が求めやすい缶入りに進化させたものといえる。同社では「一番搾り」「本麒麟」に次ぐ第3の柱と位置付けている。
「SVB事業を始めたときから、缶製品の発売は計画していました。構想段階から含めると、ここまで10年の歳月をかけています」と感慨深げに話すのは、SVBの立ち上げから中心的な役割を果たしてきた、吉野桜子である。
キリンのクラフトビール事業は段階的に発展してきた。「ビールの魅力を伝える『大聖堂』を築く」という理想の下、レストランを併設した醸造所を、東京、横浜、京都に開いたのが、第1ステージ。料飲店に向けて、社内外のクラフトビールを搭載できる専用ディスペンサー「タップ・マルシェ」を展開したのが、第2ステージ。
家庭用の商品である496の発売は、第3ステージに当たる。飲食店での外飲みが楽しめないコロナ禍の時代、「メーカーとして何ができるかと考えたときに、家で特別な時間を過ごせるクラフトビールを広めたいと願った」と商品に込めた思いを吉野は明かす。ちなみに、「手作りビール」「地ビール」などと解されるクラフトビールを、キリンでは「作り手の感性と創造性が楽しめるビール」と定義している。
同社内でSVBの構想が芽生えたのは、クラフトビールという言葉がまだ浸透していなかった、11年だった。「ビール本来の多様な魅力を伝えたい」という思いでつながったベテランのマーケターと醸造家、そして20代の吉野の3人が始めた。吉野が自らに課した役割は、共鳴する仲間を増やすこと。そのために「社内やお客様が共感し、燃え上がれるストーリーを描く!」と決めた。
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