居酒屋ママからドムドムの“母”に――。にぎわうハンバーガー市場で、懐かしいブランド「ドムドムハンバーガー」が人気復活を遂げている。独自路線で存在感を発揮するチェーンを率いるのは、異色の経歴を持つ社長、藤﨑忍氏。その型破りな戦略とは。
※日経トレンディ2021年10月号の記事を再構成
「ドムドムハンバーガー」(以下ドムドム)。この名前に懐かしさを感じる人の多くは、40~50代に違いない。「マクドナルド」が上陸する1年前の1970年に誕生した、日本で最初のハンバーガーチェーンだ。ダイエー系の会社が運営し、コロッケバーガー、お好み焼きバーガーなどの個性的なメニューと、ドリンクバーを備えるお手ごろ感が好評だった。最盛期の90年代には全国に約400店を展開。しかしその後はダイエーの不振とともに店舗は減少。2017年以降はホテル事業などを手掛けるレンブラントホールディングスの傘下となり、現在は27店が営業中だ。
いわば“絶滅危惧種”だったドムドムが近年、若者に「面白くてカワイイ」ブランドとして、新鮮に受け止められている。というのも、バーガーの枠にとらわれない多彩な試みが実を結んでいるからだ。その立役者が、18年にチェーンを運営するドムドムフードサービスの社長に就任した藤﨑忍だ。
「『面白い』『やったほうがいい』と思ったことは常にチャレンジします」と藤﨑は言う。ライブなど様々なイベントに積極出店し、丸ごと揚げたカニを挟んだ「丸ごと!!カニバーガー」をヒットさせ、ドムドムのマスコットキャラクター「どむぞうくん」のマーク入りマスクを年間約15万個売り上げた。また、BEAMSをはじめアパレル各社とのコラボも続々と展開し、今夏にはロフト各店でドムドムグッズの期間限定売り場が設けられた。これらの情報がSNSで拡散され、若いファンも急増中。コロナ禍でも黒字化を実現し20年度の売り上げは前年比109%に伸ばした。
ヒットの履歴書
企画を実行する際、藤﨑が重視するのは、「込められた思い」だという。「お客様や従業員にとって良いことは、迷わずに決断します。マスクを作ったのは従業員を守るためでしたが、世の中でも不足していたので、おすそ分けの気持ちでレジ横に置いた。それがSNSで話題を集め、お客様が大勢店にいらした。店内での密を避けるために、急きょECサイトを立ち上げ、結果的にグッズ販売が活性化しました」
ハンバーガー業界は今、高価格帯のグルメバーガーの台頭により、従来の低価格のチェーンとの2極化が生じている。そのうえファミレスや居酒屋など異業種からの参入が相次いでおり、経営のかじ取りは決して容易ではない。そうした中、藤﨑は「ポジショニングはあまり気にしません。マクドナルドさんのような大手を意識しても意味がありませんから」と独自路線を貫く。
店舗展開は、20年に“日本初つながり”で国内で最も歴史がある遊園地「浅草花やしき」に、21年春に“象つながり”で「市原ぞうの国」にとレジャー施設立地が続いた。21年7月には宮城県利府町のショッピングモールに出店。いずれも先方からの要望に応えたものだが、日本を元気にするという意味で「意義ある出店だった」と藤﨑。
さらに21年8月にはプレミアムバーガーの新業態「TREE&TREE's(ツリーアンドツリーズ)」を始動させた。あるイベントに出品して好評だった和牛のプレミアムバーガーを「もっと世に広めたい」という藤﨑の思いが結実した形だ。社内外からは「好調なドムドムの店舗を増やすべきでは」と懸念する声も多かったが、「ドムドムにもいろいろな引き出しがあった方がいい」と、藤﨑のチャレンジ魂がうずいた。
メニューは、和牛や十勝産のジャガイモなど日本産の食材にこだわる。店舗は、自社オフィスが入るビルの1階にあり、藤﨑も毎日商品をチェックする。「クオリティを保てば、お客様は必ず付いてくださる。日本生まれのバーガーチェーンであるドムドムが、“日本最高”のハンバーガーを提供することに意義がある」と藤﨑。ブランドへの信頼感の向上も狙いの一つだ。
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