「考えた人すごいわ」など、変わった店名を掲げる高級食パン専門店が各地に急増中だ。その仕掛け人、ベーカリープロデューサーの岸本拓也氏は実に300ものパン店を手掛けている。「店名を拒否されたことは一度もない」というネーミングのポリシーだけではない、老若男女誰もが楽しめる繁盛店創造術を聞いた。

※日経トレンディ2021年8月号の記事を再構成

「考えた人すごいわ」「バブリーいくよ」「夜にパオーン」「わたし入籍します」「不思議なじいさん」などなど。奇妙な店名の高級食パン専門店が、ここ数年SNSなどを中心に話題に上り続けている。売られている食パンも特徴的。生地はふわふわとした柔らかさともっちりとした弾力を併せ持ち、口に頬ばれば、甘みと香ばしさが広がる。店名からは想像がつきにくい、上質な味わいだ。そのギャップが人々を魅了し、2斤分の大きさで800円超という高価格ながら、各地で行列ができるほどの人気を集める。

 これらの繁盛店はみな一人の請負人によって創り出されている。ベーカリープロデューサーの岸本拓也だ。

ジャパンベーカリーマーケティング 社長
ベーカリープロデューサー 岸本 拓也 氏

1975年、横浜市生まれ。関西外国語大学卒。98年、横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ入社。飲食部門の企画などを担当。パン店開業のため退社し、2006年に「トツゼンベーカーズキッチン」開業。13年、現在の会社を設立。数多くのパン店プロデュースを手掛ける

 これまでに手掛けたパン店の数は約300。食パン専門店のプロデュースは2018年から本格的に始め、20年だけで約130店を開店させた。単純計算で3日に1店のハイペースで、21年秋には全国47都道府県を制覇する予定だ。「コロナ禍によるテイクアウト需要の高まりで、各店とも業績好調です」と岸本。

 1店舗当たりのプロデュース料は300万円から。そこにネーミング料50万円と店舗デザイン料100万円ほどが加わる。「繁盛店になれば数カ月で回収できる金額です」と岸本は言う。プロデューサーとしてのスタンスはあくまでも開業支援。店によってはレーズンやあずき入りのパンも販売しており、それらのレシピも地域性を考慮して岸本が提案する。開業後の半年間はアフターフォローするが、売上額に対するロイヤルティーなどは取らない方針だ。

 「今までのベーカリー業界は、消費者目線が足りなかった。おいしいパンさえ作ればいいという姿勢が強く、楽しさが十分ではありませんでした」と岸本は指摘する。そこに旋風を巻き起こす突破口があった。岸本が心掛けているのは、誰もが親しめる店づくり。そのためにパン類で一番買い求められる食パンを主力にした。ターゲットは老若男女のすべて。より厳密に言えば「普段はスーパーやコンビニで食パンを購入するライトユーザー層」である。

 風変わりな店名も、「万人受けする分かりやすさ」を考慮した結果だった。すべて岸本が名付けており、「誰でも知っている言葉を使い、ひらがなを入れて覚えやすくしています」と命名のコツを明かす。そのうえで「ありきたりよりクレイジー」を志向。「ダサさも突き抜けるとカッコよくなる」という観点から、時にはあえて野暮な名にする。中には「乃木坂な妻たち」「キスの約束しませんか」などエロスを感じさせる名前もあるが、そこにも「パンを買うのは女性が中心なので、彼女たちの本能をくすぐって記憶に刻みたい」という狙いがある。ちなみに店名に関してオーナーから抵抗されたことは「1度も無い」そうだ。

 店の外観や商品を入れる紙袋も、ひと目で覚えられるように派手に仕上げる。地域によっては紙袋に土地の名前を大きく印字しており、土産需要を呼び起こしている。

ヒットの履歴書

2006年 愛好家から老若男女へターゲット転換で成功
2006年 愛好家から老若男女へターゲット転換で成功
ニューヨークの最先端ホテルを意識したパン店を06年に開業するも、数年後、菓子パンや惣菜パンなどを扱う万人受けする店にリニューアル。これが吉と出て、地元に愛される店に
2017年頃 口溶け良く、ほの甘い飽きない食パンを開発
2017年頃 口溶け良く、ほの甘い飽きない食パンを開発
約2年をかけて開発した食パン。「日常性と嗜好性の両立」を目指し、もっちりした生地だが、ほのかな甘さで口溶けが良い。食材などを店によって変え、地域色を生かすレシピを開発する
2018年 “ヘンな名前”の食パン店開発 怒涛の快進撃がスタートした
2018年 “ヘンな名前”の食パン店開発 怒涛の快進撃がスタートした
東京都清瀬市の「考えた人すごいわ」を皮切りに、“ヘンな名前”の食パン専門店をプロデュース。おいしいパンができた時に出たつぶやきを店名に。オープン初日から長蛇の列
町をざわつかせるプロデュース力で全国各地を活性化に導いた
町をざわつかせるプロデュース力で全国各地を活性化に導いた
「すでに富士山超えてます」(静岡県)、「並んで歯磨き」(長野県)、「もう言葉がでません」(鳥取県)など繁盛店が続々誕生。小さな町の話題作りにも貢献。目を引くデザインの紙袋を含めて、ギフト需要を刺激する

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