コロナ禍を逆手に取った発想力で「ドライブインお化け屋敷」などを展開し、話題を集めているのが今回の仕事人、怖がらせ隊 お化け屋敷プロデューサーの岩名謙太氏だ。数千万円の投資が必要と思われているお化け屋敷を、わずか15万円から請け負う。お化け屋敷ビジネスの独自の開拓戦略を聞いた。
※日経トレンディ2021年6月号の記事を再構成
コロナ禍では、テーマパークのアトラクションの運営にも、一層の注意深さが求められた。中でも通常通りの営業が難しいと思われたのが、お化け屋敷だ。参加者が狭い通路を進んだり、驚いて絶叫したりするため、「3密」になりがちだからだ。
その苦境下で、コロナ対策を施したお化け屋敷を考案し、話題になり続けている人物がいる。お化け屋敷やホラーイベントの制作会社「怖がらせ隊」で、お化け屋敷プロデューサーを務める岩名謙太だ。同社の企画では、演出、脚本などほとんどの仕事をこなし、自身が出演することも珍しくない。
岩名の快進撃が始まったのは、2020年の夏。クルマに乗ったまま恐怖体験ができる、「ドライブインお化け屋敷」を編み出したのがきっかけだった。利用者が乗るクルマは亡者たちに襲われるが、ずっと車内にいるので、演者との接触は無いし、思う存分に絶叫できる。まずは東京で始めたところ、ストレスを発散したい人々で予約が殺到。現在は大阪で開催中だ。
ヒットの履歴書
実はこれを始める直前、岩名自身がコロナ禍に悩まされていた。レジャー施設の営業自粛が相次ぎ、予定した仕事の9割がキャンセルされた。絶望しかけた時、ネット配信のニュースで、ドイツではクルマに乗ったままライブを楽しむ「ドライブイン音楽フェス」が盛況だと知る。従来のドライブインシアターも人気が再燃しているという。「これだ」とひらめいた岩名は、わずか1週間弱でアトラクションとして完成させ、自主開催にこぎつけた。
人気を集めた理由を、岩名はこう分析する。「感染対策を十分に施し、安全性をアピールできたのが大きいですね。遊園地に行くのはまだはばかられる時期に、安心して楽しめる施設として家族連れにも受け入れられました」
以後、怖がらせ隊への仕事に関する問い合わせは10倍以上に膨らんだ。期待に応えるべく、岩名はコロナ時代に対応した“非接触型”のお化け屋敷を次々と考案。棺桶やトイレの個室を舞台にし、飛沫防止のためにお化けに着ぐるみを着けさせた。
ヒットの履歴書
21年5月3〜5日には、日本で初めてホテルの結婚式場をお化け屋敷に活用した、宿泊型のイベント「禁じられた結婚式」を開催。「不謹慎かもしれませんが、平時にはお化け屋敷にできない場所を利用できる今は、我々にとってチャンスになっています」と岩名は明かす。利用者が減った交通機関や各種ホテルなどからも相談が舞い込んでいるという。
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次から次へと湧き出るアイデアは、自分自身の豊富な“恐怖体験”に基づいている。小説や映画など数々のホラー作品だけでなく、「都市伝説、伝承、噂話などからヒントを得ることが多い」と岩名。合法的に見学できる廃墟、洞窟、心霊スポットなどにも足を運び、その場の雰囲気を体感してきた。さらにドライブイン方式を思い付いた時のように、ホラーとは無縁のメディアからの情報収集にも余念がない。
常に新しい体験を提供するためには、「ルールを作らないこと」が重要だという。「成功経験を基に得意なジャンルを決めてしまうと、同じパターンの繰り返しになってしまう。毎回、少しでもいいから1歩前進することを肝に銘じています」と岩名は言う。
何よりも、怖がらせ隊の大きな強みは、開催する場所や予算の規模を選ばないことだ。「どんな場所も、知恵とローコストでお化け屋敷にできる」を信条に、多方面からの依頼に応えてきた。予算額は、人件費を別にして、15万円ほどから請け負う。常設の施設を作ると数千万円以上かかるとされるので、驚きのサービス価格だ。「実際のところ、お化け屋敷の普及を阻んでいるのが、高額な施設の建設費です。もっとハードルを下げて、ホラーエンターテインメントを定着させたいのです」と岩名は真剣な表情で語る。
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