おうち時間を充実させる意識の高まりを捉え、販売好調な生活雑貨メーカー、マーナ。「シュパット」「エコカラット」「トーストスチーマー」など、意表を突くヒット商品が続々と出ている。その開発を統括する同社専務取締役・名児耶剛の思想とは。

※日経トレンディ2021年5月号の記事を再構成

マーナ専務取締役の名児耶剛氏
マーナ専務取締役の名児耶剛氏

 コロナ禍が続く中、生活雑貨メーカーのマーナ(東京・墨田)が、ヒット商品を続々と世に送り出している。使用後に短時間で折り畳めるエコバッグ「Shupatto(シュパット)」は、累計販売900万個以上を記録。今も引く手あまたの状態が続く。水に浸してトースターに入れるだけでトーストをふっくらと焼き上げる陶器「トーストスチーマー」も高い人気をキープ。さらに2021年1月には食パンをおいしく冷凍保存できる、その名もずばり「パン冷凍保存袋」を発売。食パン1斤買っても、すぐには食べきれない1〜2人暮らしの人たちの“救世主”となり、品切れが続出するヒットとなった。

 「どの製品も、開発には1年半から2年かけています。心掛けているのは、一時的な流行に左右されないものづくり。世に出す基準は色々ありますが、一言で表せば『マーナらしさ』があるかどうかでしょうか」

 そう話すのは、同社専務で16年から開発を統括してきた名児耶剛。マーナを創業した名児耶家に、現社長の長男として生まれた“王子”である。

マーナ 専務取締役 名児耶 剛 氏
1983年、東京生まれ。2006年に学習院大学経済学部経営学科卒業後、留学のため渡米。帰国後、発電プラント輸出商社に3年間勤務し、11年マーナに入社。13年に取締役就任。16年に商品開発部門の統括に就き、18年から現職

 「マーナらしさ」の神髄について、名児耶は次のように説明する。「使っているときは心地よく、使っていないときには、美しいたたずまいを見せる。そういう製品を目指しています」

 例えば、前出のトーストスチーマーの場合、「蒸気を発生する」という機能性だけを見れば、陶器の形は問われない。しかし使用時の楽しさを考慮して、あえて食パンを模した外見にした。上部が膨らんだ食パン形の陶器は、金型から抜けにくいため生産効率が落ちるが、「その点は、譲れなかった」という。そして「もちろん見た目だけでなく、使いやすさでも妥協はしません」と名児耶は強調する。

 要はマーナらしさとは、「洗練されたシンプルなデザイン」と「使いやすさ」の共存といえる。さらにそこには、創業以来培ってきたマーナならではの企業風土が深く関係していた。

 まずは、その歴史を振り返ってみよう。現在の同社は生活雑貨メーカーとして、キッチン関連、浴室関連、掃除用品、エコバッグなど、幅広い領域にわたる約300品目を展開している。だが1872(明治5)年の創業時から長らくは、ブラシ専業メーカーだった。当初の屋号は、○の中に名児耶の「ナ」を書いて「マルナ」。現社名のマーナは、そこから命名されている。

 生活雑貨メーカーへ大きく舵を切ったのは、父の名児耶美樹が社長に就任した1990年代末。来年創業150年を迎える社の歴史を考えると、意外に最近のことだ。その頃に発売された、魚の形をしたスポンジやブタの顔をかたどった落とし蓋など、しゃれの利いた雑貨類は今でも定番商品だ。なお当時在籍していた叔父の名児耶秀美はその後独立し、デザイン重視の雑貨メーカー、アッシュコンセプトを立ち上げている。

 事業内容こそ変化してきたが、日本でいち早く国産ブラシを製造販売した創業者から、代々変わらずに受け継がれている精神がある。その一つが、改良へのたゆまぬ努力。「約150年も続けてこられたのは、2代目も3代目も、より良い商品を作り続けてきた結果と考えています。先代社長の祖父からは、『誠実でありなさい』と『良い商品を作りなさい』の2つの言葉を贈られました。父である社長も、日々『良く変えろ、改善しろ』と口癖のように言っています。これがマーナの家訓とも言えるでしょう」と名児耶。

 そして何よりもマーナの根幹となっている思想が、「生活者に奉仕する心」だ。「もともとが“ブラシ屋”だったので、私たちは『自らが汚れても、相手をきれいにする』という理念を大切にしてきました。商品の開発には生みの苦しみが伴いますが、それを使った人が幸せを感じてもらえたら、無上の喜びに変わります」。いわば、この“きれいごと”こそが商品開発の大義であり、心臓部であるという。

 名児耶が今力を入れている、ブラシやスポンジなどのキッチン掃除道具をそろえた「清潔謹製」シリーズには、この心意気が象徴的に表れている。どの品も「清潔へのこだわり」という原点を、今の時代に適したデザインに落とし込んだという。その自信の証しとして、パッケージにはブラシ専業時代のシンボルマークを現代風にしつらえたロゴを大きく配している。

創業当時から継承する「自らが汚れても、相手をきれいにする」理念を象徴する台所掃除道具「清潔謹製」シリーズ。左の写真は創業当時のブラシ
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