キリンビールが2020年、ビール系飲料の首位に返り咲いた。その快挙を導いたのは、常務執行役員の山形光晴氏だ。P&G出身のマーケターである山形氏は、キリンビールに転職後、看板である「一番搾り」ブランドを刷新し、第3のビール市場を大きく変えたヒット商品「本麒麟」を世に送り出した。「仕事人」が、岐路で選択してきた鉄則とは。

※日経トレンディ2021年4月号の記事を再構成

キリンビール 常務執行役員マーケティング本部 マーケティング部 部長 兼事業創造部 部長 山形光晴氏
キリンビール 常務執行役員マーケティング本部 マーケティング部 部長 兼事業創造部 部長 山形光晴氏

 「消費者が本当に求めているのは何かを徹底的に突き詰めることこそが、マーケティングの基本であり本質。私はそれを貫いているだけです」

 そう明言するのは、2017年からキリンビールのマーケティング部門で手腕を発揮している山形光晴。同社は2020年のビール系飲料市場で11年ぶりに首位に戻ったとされるが、その快挙において大きな役回りを担った一人だ。

キリンビール 常務執行役員マーケティング本部 マーケティング部 部長 兼 事業創造部 部長 山形光晴氏
1976年、埼玉県出身。慶応大学経済学部卒。99年P&G入社。日本とシンガポールで主にヘアケア商品や化粧品のマーケティングを担当。2015年、キリン入社。キリンビバレッジを経て17年、キリンビール マーケティング部長に。20年春から現職

 17年の着任早々、主力かつロングセラーのビール「一番搾り」を刷新。最初に搾った麦汁だけを使う「一番搾り製法」のおいしさを、改めて訴求する原点回帰によって成功に導いた。18年に立ち上げた第3のビールの新ブランド「本麒麟」は大ヒットを記録し、昨年も約2000万ケースを売り上げた。20年10月には日本のビールで初めて「糖質ゼロ」を実現した「一番搾り 糖質ゼロ」を投入。巣ごもり生活で高まる健康志向を捉え、アルコール飲料市場を牽引した。

 成果を上げ続ける秘訣を本人に聞けば、冒頭の答え。「マーケティングに王道はなく、経験を積み重ねるだけです。数多くのお客様の話を聞く以外に道はないと信じています」と話す。

 本麒麟では、消費者と真摯に向き合った結果、CMなどのコミュニケーションでは本格的なビールのようなおいしさを「うまい」の一言に集約。従来のビール系飲料の定番だった「コク」「キレ」といった表現はいっさい使わなかった。

 山形は説明する。「お客様は、業界従事者のように一日中ビールについて考えているわけではないし、『第3のビールが欲しい』といった選択の仕方はしない。『今日はちょっと、家でいいものを飲みたいな』という感覚で商品を選んでいるわけです。その温度感をつかむことが、消費者理解と言えるでしょう」。

 「コク」「キレ」といった言葉で商品を差別化できるとするのは、ビール会社の思い込みであり、すでに消費者には届いていないと見極めたうえでの結論だ。「ただ、その距離感を縮めるのが一番難しいところでもあります」と続ける。

 もちろん店頭でビールを手に取るのは会社帰りのビジネスパーソンばかりではない。子供を連れた主婦が夕食のメニューを考えながら購入することもある。あらゆるパターンを想定しながら、商品を届かせるには、想像力を極限まで働かせた「仮説力」がカギを握る。そして、仮説力を磨くためにも、大勢の人と会い、店頭観察を続けることが大切だ、と山形は説く。「自分の感性だけを信じていては、正解は出ないでしょうね。多くのお客様に出会うことで得られる『肌感』がないと、やるべきことは見つかりません。300%の努力をして、確信に至ることが勝負を分ける、と信じています」。

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