ファストフード業界で、好調を維持している日本ケンタッキー・フライド・チキン。その立役者である、マーケティング本部長 CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)の中嶋祐子氏が取ったのは、消費者に何度も選ばれるための「2層戦略」だった。大胆な発想の源泉と哲学を聞いた。
※日経トレンディ2020年12月号の記事を再構成
2020年に日本上陸50周年を迎えた「ケンタッキーフライドチキン(KFC)」が、快走を続けている。
1号店開業が「マクドナルド」より半年以上早く、ファストフード(FF)業界では老舗筆頭格のチェーンだが、ほんの数年前まで業績不振に苦しんでいた。その状況を打破したのが、18年4月に日本ケンタッキー・フライド・チキンに入った、マーケティング本部長 CMOの中嶋祐子。彼女の指揮のもと、同社は短期間での復調に成功。コロナ禍でも勢いは衰えず、既存店の売上高もプラス成長を維持し、テイクアウトやデリバリーで好調なFF業界でも頭抜けた快調ぶりを発揮する。
マーケティング本部長 CMO 中嶋祐子氏
中嶋の以前の勤務先は、KFCブランドを保有する米ヤム・ブランズのアジア部門で、日本KFCのブランド戦略にも携わっていた。18年に改善策を直接仕掛ける立場になってからは、「やるべきことをやり抜く」姿勢を貫く。それこそが復活の秘訣という。「お客様が何を望んでいるか、カスタマーファーストでビジネスをするということです」と中嶋は言い切る。
日本のKFCの特徴は、クリスマスや仲間内のパーティなど、ハレの日によく買い求められることだった。そのぶんランチタイムなど日常利用の伸び悩みが、長らく課題となっていた。
そこで中嶋が敢行した施策が、「2層戦略」。買い得感のあるセットと期間限定商品の双方を強化。前者で来店頻度の低い客や新規客をつかみ、後者でファンを店に呼び寄せるのが狙いだ。「要は消費者の選択肢に上がり、何度も選ばれるためです」と中嶋。
もちろん市場も綿密に分析した。「歴史あるFFなので、中高年層が抱くKFCのブランドイメージはとても好意的です。一方、若年層にとっては、コンビニなどと並んで数ある選択肢の一つにすぎない。お得なセットも少ないので、『ケンタッキーは高い』と思われていました」。負のイメージを払拭し、「ワクワクするブランド」という認識を広げることが肝要だった。
大きな成果を上げたのは、18年7月から販売し、今では定番化した500円のランチセット。海外で成功していた「5ダラーランチ」を日本の消費者向けにアレンジしたものだが、「KFCの価値が下がる」という異論も社内から出た。しかし中嶋は、「多くの消費者に体験してもらうことが大事」と説得した。彼女が留意したのは、「モメンタム(勢い)をつくること」。ヤム時代の上司から「客数が客数を呼び、モメンタムがモメンタムをつくる」という教えを受けており、それを実践した形だ。
同時に、CMに演技派女優の高畑充希を起用。「今日、ケンタッキーにしない?」というセリフによるストレートな訴求が奏功し、日常利用を後押しした。期間限定品に関しても、19年の甘辛い「辛口ハニーチキン」以降、ヒット率が向上。テスト販売をはじめ、調査とデータ分析の精度を上げた成果だ。
この記事は会員限定(無料)です。