大手2社がシェア8割以上を占めるポテトチップス市場。そのなかで、「店で見つけたら即買い!」と菓子好きが沸き立つ小規模メーカーによるポテトチップスがある。老舗企業、菊水堂社長の味わい深い仕事流儀とは。
※日経トレンディ2020年9月号の記事を再構成
ネット通販で人気の「できたてポテトチップ」は、ポテトチップスの老舗メーカー菊水堂(埼玉県八潮市)の看板商品だ。賞味期限は製造からわずか2週間。製造当日に出荷され、最短で翌日には食べられる。
2012年の発売以来、根強いファンがいたが、15年にテレビ番組「マツコの知らない世界」で紹介されると、顧客が一気に全国に拡大した。近年はコンビニや高級スーパーなどの取り扱いが増加。コロナ禍にあっても、巣ごもり需要の高まりで勢いは止まらず、受注は前年の約1.5倍と絶好調だ。
同社の2代目社長の岩井菊之は、現状の手応えを次のように話す。
「コロナ環境下で、人々が『本物』を求めるようになったと感じています。そんな中、菊水堂のイモの香りがするポテトチップスが選ばれるのはありがたいこと。真摯なもの作りを続けなければいけない責務を痛感します」
できたてポテチ(塩味)の原材料は、ジャガイモ、油と沖縄産の焼き塩のみ。塩分量は0.7%と控えめだ。この方針は、先代社長である父の「菓子のおいしさは素材で決まる」という信念を受け継いでいる。小学生の頃には、父とともに北海道から九州までポテチ向きのイモを探し歩いた。今も季節ごとにイモの産地や品種を変えるので、製品の味わいも少しずつ変化する。それもまた同社ファンにとっては醍醐味だ。「添加物をいっさい使わないのも、『子供が食べるものだから』という父のこだわりによります」と岩井。その姿勢に賛同した生活協同組合には、70年代から商品をOEM供給している。
「素材が少ない分、ごまかしが利かない」と岩井が評するポテチは、住宅街の真ん中、オフィスに隣接する工場で作られている。1日の生産量は約2万袋。同社のフライヤーは、フライ油の中を炎が通り抜ける「直火炊き」だ。昔ながらの機械で、全国に数台しか残っていないという。大手メーカーが使っている最新型に比べると、熱の伝わり方にムラがあるが、イモの風味が強く出るのが特徴だ。ただし念入りなコントロールが必要で、「イモの特徴やその日の気温、湿度に合わせて、日々フライ時間や温度を調整しています」と岩井は説明する。
かつては新しいフライヤーを導入しようとも考えたが、周囲の関係者から「菊水堂さんの商品はイモの香りがする。よそにない長所だ」と言われて思い直す。今は「これがうちの味なのだ」という誇りを胸に、「古い機械でやれるところまでやろう」と決めた。
ちなみに岩井の座右の銘は「義を見てせざるは勇無きなり」。「おいしさと利益を天秤にかけたら、おいしさを取る」という硬骨漢でもある。
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