衣料用柔軟剤の「ソフラン プレミアム消臭」がヒット中だ。嵐・相葉雅紀をCMに起用し、「革命」を訴求しているが、その裏に「靴下5000足を集めた実証実験」といった地道な努力がある。チームを率いて、タフな市場でヒットを連発してきたヒットメーカーの熱意に迫る。日経トレンディ人気連載「技あり!仕事人」の2019年6月号のアーカイブを掲載。
※日経トレンディ2019年6月号の記事を再構成
ライオンが2019年2月末に改良新発売した衣料用柔軟剤「ソフラン プレミアム消臭」がヒット中だ。ニオイを「消す」から「生ませない」への“柔軟剤革命”と銘打ち、主婦だけでなく男性にもアピール。前年比で約130%の売れ行きを見せて、1位ブランドの「レノア」(P&G)を追い上げている。
ブランド担当として、今回の改良に当たったのが同社の西倉莉加。これまでに制汗剤、ボディソープなどで実績を上げてきたヒットメーカーだ。
商品開発時に西倉が心掛けるのは、「一点突破」。消費者の不満や悩みに応える特徴を、1つに絞り込んで世に送り出す。14年発売の制汗剤「Ban(バン)汗ブロックロールオン」では、「ワキ汗ジミ」対策という「視覚」に訴えた戦略で新潮流を生んだ。また16年発売の「hadakara(ハダカラ)ボディソープ」では、仕事や家事に忙しい女性に向けて、体を洗いながら肌の保湿ケアができる価値を前面に押し出した。そしてソフラン プレミアム消臭で着目したのが、ニオイで周囲に迷惑をかける“スメハラ”だ。「消費者の悩みを一つ一つ、ライオン独自の技術によって解決する。それが私にとっての一点突破です」と西倉は言う。
商品が打ち出す新しい価値を、「保湿成分が洗い流されない」「ニオイを生ませない」などと、従来品へのアンチテーゼというべき否定形で表現するのも西倉流だ。「既存品にはない価値だと気付いてもらうのに、有効な手段だと考えています」と説明する。
こうした手法に行き着くまでには、苦い経験もあった。マーケターデビューとなった商品では、「訴求の仕方が三段論法になり、伝わりにくくなってしまった」という。後に上司から「なぜ、そう考えたのか?」と日々繰り返し問われるうちに、「誰よりも考え抜いて、一点突破を貫く」姿勢を鍛えられた。
訴求ポイントを1点に絞るということは、万一狙いが外れた場合、取り返しのつかない失敗に陥る可能性がある。だからこそ西倉は慎重に慎重を重ね、自信が持てるまで考え抜く。
「重要なのは、突破するポイントが、社会潮流を捉えていることです」と強調。世の中で流行していることが自分でも体験できる場合は、可能な限り実践する。制汗剤バンの担当時には、若い女性に普及している永久脱毛の施術を受け、汗のかき方の変化を実感した。昨今の「美尻ブーム」に対応すべく、スポーツジムにも通う。「他の人の汗のかき方や、ウエアやスニーカーの素材をチェックします」。友人との会話やSNSでのやり取りなど、何気ないコミュニケーションにも次の開発のヒントを見いだす。「日々自分の中に何かを取り込むようにしています。それがヒットの確率を上げるのに役立つと確信していますから」と言い切る。
消費者の実態をつかむためには、半期に1度、4~6軒ほどの個人宅を巡る「家庭訪問調査」も欠かせない。
「制汗剤やボディソープはターゲットが自分に近いので、主観を頼りにできました。でも柔軟剤市場を支えるのは子供を持つ40代の主婦。特にソフランブランドは地方で強いので、自分の視点だけでは通用しません。顧客に素直に向き合うために、“お宅訪問”を実施しています」と西倉。
消費者を招いてインタビューをしても、本音が出るとは限らない。しかし、自宅にまで行けば、その人となりまで見えてくるという。「例えば柔軟剤については、うれしそうに話す人が多いんです。柔軟剤は家族のために衣類の着心地を良くしたいと思って使うもの。愛情や前向きな気持ちが宿っているんですね。だからCMも、明るいトーンにしようと決めました」。
その他、消費者が日常的に使うのは経年劣化したタオルだと分かれば、研究の現場でも同様のものを使うようにするなど、開発の助けとなる気付きを家庭訪問のたびに得てきた。
この記事は会員限定(無料)です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー