コーヒーの世界屈指の消費国である日本と、生産国をつなぐ最強の「コーヒーハンター」、それがミカフェート社長のホセ・川島良彰氏だ。サントリー食品インターナショナルが出した本格ペットボトルコーヒーの「プレミアムボス コーヒーハンターズセレクション」を共同開発。「コーヒーの力で世界を変える」という野望とは。日経トレンディ2019年9月号掲載のアーカイブを公開。

※日経トレンディ2019年9月号の記事を再構成

ミカフェート 社長のJose.川島良彰氏
ミカフェート 社長のJose.川島良彰氏

 サントリー食品インターナショナルは2019年5月末に、家庭用の需要を開拓すべく、「プレミアムボス コーヒーハンターズセレクション」を発売した。コーヒーを手軽に楽しめるペットボトル入りの商品ながら、味は本格的で、馥郁たる香りを堪能できる。しかも香料は不使用。「無糖」「甘さ控えめ」の2種あり、前者の原材料はコーヒーのみ、後者も砂糖が加わるだけだ。750ミリリットル入りで価格は300円ほどと高めだが、既存の家庭用アイスコーヒーとは一線を画す味わいで、売れ行きも好調だ。

 この商品を共同開発したのが、コーヒー専門会社ミカフェートの社長、ホセ・川島良彰。世界各地の産地を巡り、「コーヒーハンター」の異名を持つ川島は、農園での技術指導、コーヒー豆の輸入販売、カフェの運営など、コーヒーに関するあらゆることを手掛ける。コーヒーを知り抜いた男が、ペットボトル商品の開発に協力したのは、「コーヒーと名の付く飲み物すべてをおいしくしたい」という情熱からだ。

ミカフェート 社長 Jose.川島良彰氏
1956年、静岡市生まれ。18歳でエルサルバドルに渡り、国立コーヒー研究所で栽培技術を習得。81年、UCC上島珈琲入社。ジャマイカ、インドネシアなどでコーヒー農園を開発。2007年に退社。08年にミカフェートを設立
「プレミアムボス コーヒーハンターズセレクション」を共同開発。「無糖」と「甘さ控えめ」の2種。750ミリリットルで税別298円
「プレミアムボス コーヒーハンターズセレクション」を共同開発。「無糖」と「甘さ控えめ」の2種。750ミリリットルで税別298円

 コーヒーハンターズセレクションに使用している豆も、もちろん川島自身が選定した。輸送や保管をするときも定温を保つなど、鮮度を維持するためには「一切の妥協はしなかった」という。「豆は定温倉庫でぎりぎりまで保管してから焙煎すると、香りが高くなります。日常的に飲まれる商品でも真面目に作れば、これだけおいしくなることを実証したかった」と川島は熱く語る。

 「他人にどう思われようと、コーヒーにとって正しい道を追求する。それがすべての原動力です」。そう言い切る川島は、これまでの人生のほとんどをコーヒーと共に歩んできた。静岡で焙煎業を営む家に生まれ、幼少時からコーヒー豆を身近に感じて育った。18歳でコーヒーについて学ぶために中米・エルサルバドルに単身で渡航。同国の国立コーヒー研究所に通い詰めて、入所を許可される。「やりたいことを一心不乱にやれば、いつかは必ず道が開ける」ことを身をもって知った。「ホセ」の通称も、この頃に付けられた。

コーヒー入門編としてミカフェートが開発した、新ブランド「カフェ レボルシオン」
コーヒー入門編としてミカフェートが開発した、新ブランド「カフェ レボルシオン」

 20代半ばに米国でUCC上島珈琲の会長と出会い、同社に入社。以後、25年余りにわたって、世界各地で直営農園の開発に携わる。コーヒーの品質追求を極めようと思ったのは、1989年に中米のグアテマラで約100年続く農園を訪ねたことがきっかけだ。農園主が国際相場に左右されずに、手間暇かけて良質のコーヒーを育てているのを見て、豆の品質を正当に評価する重要さを痛感する。ブランドで判断するのではなく、あくまでも豆そのものの品質で優劣を決める基準を策定した。

 「同じブルーマウンテンでも、山の南斜面と北斜面では品質が異なるし、収穫する年でも出来栄えが違う。それらを全部『ブルーマウンテンだから最高級』とするのは無理があります」。

 最上の豆を頂点にコーヒーを格付けしていく「品質のピラミッド」を提唱するが、会社の意向とそぐわない面もあった。理想を追求すべく退社し、2008年にミカフェートを立ち上げた。

 「私の辞書に『諦める』という言葉は無いんです」と笑う。ちなみに「ブルーマウンテンは木樽に入れて運ぶもの」という業界内の定説を覆して、品質保持に適した密閉性の高い容器を採用したのも、川島が初めてだ。

 開業パーティーには川島の父も出席。若い頃は意見の相違から親と衝突をしたこともあった。しかし川島が最高峰に位置付けたコーヒー「グラン クリュ カフェ」を飲んだ父親は、こう言った。「おまえは正しかったな」。長年の苦労が報われたと感じた瞬間だった。

 今も1年の半分近くは、最高のコーヒーを求めて世界を飛び回る。これまでに巡った農園の数は、約3000カ所。「旅に出るたびに、新しい発見があります。先日もアフリカのルワンダで、老人が初めて見る剪定方法を披露してくれました」と目を輝かせる。

1年の半分近くは世界各地の生産地を駆け巡り、最高においしいコーヒーを追い求め続けている
1年の半分近くは世界各地の生産地を駆け巡り、最高においしいコーヒーを追い求め続けている

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