1000を超える唯一無二のTシャツを作り、コアなTシャツユーザー、芸能人、企業から熱視線を集める「ハードコアチョコレート(コアチョコ)」。「目指したのはTシャツ界のタランティーノ」と言い、1970~80年代の昭和ネタを題材にオリジナル商品を次々に生み出す代表、宗方雅也氏の意気込みを聞いた。日経トレンディ人気連載「技あり!仕事人」の2019年10月号のアーカイブを掲載。
※日経トレンディ2019年10月号の記事を再構成
東京・東中野。駅前の雑踏を抜けた、商店と住宅が入り交じった街並みに、オリジナルデザインのTシャツを製造・販売する「ハードコアチョコレート(コアチョコ)」のショップがある。店内には、映画、漫画、アニメ、特撮、プロレスなど、コアなファンに支持される題材を、パンク調の過激なデザインに落とし込んだTシャツが並ぶ。超個性的なデザインをすべて手掛けているのが、コアチョコ代表の宗方雅也だ。
商品を作るとき、宗方が意識するのは、それが唯一無二であるかどうか。「他ブランドが絶対にまねできないものを作ってやろうと、いつも思っています。そこがうちの存在意義。追求するのは、買う価値のある一枚です」。
取材当日も、他では手に入らない商品を探しにきた若者がまとめ買いしていた。店舗以外にも、自社サイトやアマゾンでネット販売し、書店のヴィレッジヴァンガードをはじめ全国約50店で委託販売するなど、販路は幅広い。
「誰も行ったことの無い領域にまで踏み込みたい。だからデザインを考えるときは、全部のリミッターを外しています」と宗方の言葉は強い。首尾一貫した姿勢に共鳴するファンは増え続け、芸能人のユーザーも少なくない。
年間に考案するデザインは、150以上。これまでに1000種を超えるTシャツを生み出してきた。選ぶ題材は、宗方が幼少期から体験してきた1970年代の「昭和ネタ」がもっぱらだ。「自分が好きな作品であることが、大前提。かつて憧れた作品を、一つ一つ商品化している形です」と話す。
ただし、宗方の信条は「アンチ王道」。有名な作品を取り上げる場合も、マニアックな視点や、攻撃的な作風を忘れることは無い。例えば「ウルトラシリーズ」の怪獣なら、一般によく知られたバルタン星人ではなく、世間的にはややマイナーな、3つの顔を持つ三面怪人ダダなどを選ぶ。それも3種の顔すべてをデザイン化する徹底ぶりだ。
Tシャツを通じて、往年の名作を若い世代に届けたいという思いもある。原作の雰囲気をそのまま残しつつ、そこに英字のロゴを取り入れるなど、今の若者が親しみやすい演出を加える。
題材の取捨選択やデザイン化に自信を持てるのは、やはり時代の空気を吸ってきた確かな記憶があるからだ。
「仮面ライダーが1号、2号、V3と続いたことは、ウィキペディアでも調べられます。でもV3をやっていたときの、ウルトラシリーズは何で、どんな漫画や歌謡曲がはやっていたかは、その時代を真剣に生きていないと分かりにくい。僕はこれを『縦の知識』『横の知識』と呼んでいますが、リアルなものを作るには、同時代的に広がっている横の知識が絶対必要なんですよ」
つまり宗方のデザインは、作品の登場人物や場面を造形的に模写するだけでなく、その世界観や時代性まで再現しようとする。その方針をよく表すのが、漫画家・永井豪の傑作『デビルマン』のTシャツだ。主人公のデビルマンにだけ焦点を当てるのではなく、物語の終盤でヒロインの美樹が私刑に遭い、生首をさらされた場面を採用した。「そのシーンが、作品の本質だからです。作品を知っている人なら分かることでしたが、さすがにファッションには取り入れにくい。それなら自分がやってやろうと決意しました」。
それこそが宗方の真骨頂だった。
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