ミッションは、ビールの次の柱となる「健康領域」の新事業の開拓だった。プラズマ乳酸菌入りの「iMUSE」ブランドを成功に導いた、キリンホールディングス ヘルスサイエンス事業部 部長の佐野 環氏。この事業を手掛ける前は、「氷結」ブランドの成功も経験。キリン100年の歴史を紐解いて導いた、ものづくりの根底にある思いとは。日経トレンディ人気連載「技あり!仕事人」の2019年12月号で取材したアーカイブを公開。

※※日経トレンディ2019年12月号の記事を再構成

キリンホールディングス ヘルスサイエンス事業部 部長の佐野 環氏
キリンホールディングス ヘルスサイエンス事業部 部長の佐野 環氏

 競合ひしめく乳酸菌市場で、存在感を高めているのが、キリングループが展開するブランド「iMUSE(イミューズ)」だ。免疫細胞を活性化できる世界初の乳酸菌「プラズマ乳酸菌」を活用し、2017年から飲料、サプリメント、ヨーグルトなどを発売。18年度の売り上げは、当初見込みの約1.5倍の55億円に達した。直近1年間の数字を見ても、前年比7%増と好調に推移している。サプリの「イミューズ プロフェッショナル」では薬局や医療機関といった新しい販路を開拓。19年9月からは海外でも飲料を販売している。

プラズマなどの乳酸菌の生産拠点「iMUSEヘルスサイエンスファクトリー」を新設。開発を加速させる
プラズマなどの乳酸菌の生産拠点「iMUSEヘルスサイエンスファクトリー」を新設。開発を加速させる
「イミューズ」初の海外商品として9月にベトナムで飲料を発売。「抗ウイルス免疫システムを強化する」機能を表示
「イミューズ」初の海外商品として9月にベトナムで飲料を発売。「抗ウイルス免疫システムを強化する」機能を表示

 「乳酸菌市場は、新規参入の余地が無いと言う人もいますが、この事業をキリンがやらずしてどこがやるのか、というほど親和性を感じています」。そう言って胸を張るのは、16年から、この事業を担ってきたキリンの佐野環だ。

キリンホールディングス ヘルスサイエンス事業部 部長 佐野 環氏
1971年、東京生まれ。東京大学文学部卒、社会心理学専攻。94年キリンビール入社。「氷結」の開発に従事しトップブランドに育成。2009年にマサチューセッツ工科大学でMBA取得。豪州の子会社やキリンのブランド戦略部を経て16年、事業創造部(現部の前身)の部長に就任

 もともと佐野が受けたミッションは「キリンにとって、ビールの次の柱になる健康領域の新事業の開拓」だった。「自分たちが自信を持ってできること」を見極めるべく、佐野はキリンの100年超の歴史を洗い出す。そして見つけた答えが、「発酵の持つ力」。ビール造りに発酵は不可欠であるし、グループ内には発酵技術を医薬品などに活用してきた協和発酵バイオや、ヨーグルトを製造する小岩井乳業がある。「発酵こそがキリングループの根っこ、あらゆる事業の原点です。生命を敬う気持ちを、この年の間、脈々と受け継いできました」と佐野は強調する。そして着目したのが、11年にグループ内の研究所で機能が発見され、12年に商品化もされたものの、認知度が十分とはいえなかったプラズマ乳酸菌だ。

 「新しいことを始めるときには、知ったかぶりをしてはいけないと思っています。中途半端に知識を持っても、バイアスがかかる。『自分は知っていると思うな』を信条に、ゼロからのスタートを心掛けています」と明るく笑う。

 グループ各社から意欲的な人材を集めて、イミューズを立ち上げた。「既存の事業の踏襲でも、消費者が喜ぶものに仕立て直すことができれば、新しくなると考えました」と佐野は話す。メンバーに掛けた言葉は「ドゥ・ザ・ライト・シング(正しいことをしよう)」。キリンが培ってきた価値観を消費者の立場になって磨き直した。目指すは、これまでの歴史の長さと同じだけ先の未来に残る「年ブランド」だ。

 この姿勢は、かつて缶チューハイの「氷結」を手掛けたときに教訓として身に付けたものだ。若者向けのファッショナブルな缶を採用し、果汁のフレッシュな味わいを重視したところ、「新しい」と評価され、大ヒットブランドに成長した。「複数の消費者視点の価値を組み合わせたことで、新しい需要がつくり出せた」と振り返る佐野は、「氷結の母」とも呼ばれる。

 パッケージに商品特徴を簡潔に記すのも、消費者へのメッセージを重視しているからだ。氷結では「天然クリアストレート果汁を使用」「スッキリ飲みやすい」と素材や味わいを明記し、イミューズ商品の裏面にはプラズマ乳酸菌の出自と風味を記した。「メッセージに魂を入れる。その作業を私は非常に大事にしています」と佐野は言う。

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