「綾鷹」「ジョージア ジャパン クラフトマン カフェラテ」をヒットさせ、19年10月に、日本コカ・コーラ初の酒類ブランド「檸檬堂」を成功に導いたのが、同社CMO(最高マーケティング責任者)の和佐高志氏だ。すでに他社のヒット商品のある市場で、「後発でも変革を起こす」ために何をしてきたのか。前職のP&G時代からつながる、マーケターとしての思考に迫る。

※日経トレンディ2020年6月号の記事を再構成

日本コカ・コーラ CMO(最高マーケティング責任者)の和佐高志氏
日本コカ・コーラ CMO(最高マーケティング責任者)の和佐高志氏

 2020年4月27日、売り上げ好調な日本コカ・コーラのペットボトルコーヒー飲料「ジョージア ジャパン クラフトマン」に新しい顔が加わった。6人の人気アーティストが、明るく躍動的なデザインを施した特別なパッケージが数量限定で登場したのだ。表面には「Don't Worry」(心配しないで)、「Thank You」(ありがとう)などと、人々を癒やし、鼓舞するメッセージが記されている。

4月27日に登場した「ジョージア ジャパン クラフトマン」の「メッセージボトル」。カナヘイ、大橋美由紀ら人気アーティストのデザイン、3味、各12種。8月末ごろまで販売予定
4月27日に登場した「ジョージア ジャパン クラフトマン」の「メッセージボトル」。カナヘイ、大橋美由紀ら人気アーティストのデザイン、3味、各12種。8月末ごろまで販売予定

 ジョージアは、コミュニケーション戦略として、2000年代の「明日があるさ」や最近の「世界は誰かの仕事でできている」など、一貫して努力する人へエールを送ってきた。今回のメッセージ入りのデザインも、そのブランドコンセプトを反映したものだ。

 「コーヒー飲料に限らず、清涼飲料水の大切な役割は、心と体のリフレッシュ。今のような時期、普通の日常の幸せを感じてもらうためにも、CMは変わらずに放映します」。そう力強く語るのは、同社CMO(最高マーケティング責任者)の和佐高志だ。

日本コカ・コーラ CMO(最高マーケティング責任者) 和佐高志氏
1967年、大阪生まれ。同志社大学文学部で新聞学を専攻。90年、P&Gジャパン入社。ブランドマネジメントの要職を経て2009年、日本コカ・コーラ入社。多分野のマーケティング担当副社長を歴任し、19年7月から現職

 これまで茶飲料の「綾鷹」を大ヒットに導くなど、マーケターとして実績を積み上げてきた和佐のもとに、2019年から今年にかけて朗報が相次いで届いた。ジャパン クラフトマンの「カフェラテ」が、19年2月から今年1月までの1年間で、ペット入りコーヒー飲料の売り上げシェア1位を獲得したのだ(市場調査会社・インテージ調べ)。さらにレモンサワーに特化したブランド「檸檬堂」が、19年秋の全国発売以来、好調な推移を見せていた。

売り上げシェア1位の「ジャパン クラフトマン カフェラテ」
売り上げシェア1位の「ジャパン クラフトマン カフェラテ」

 ジャパン クラフトマンのような、500ml程度のペットボトルに入った商品は、今や缶コーヒーを抜いてコーヒー飲料の主流となっている。この分野で同社は後塵を拝してきただけに、社内に喜びと安堵が広がった。

 コーヒー飲料に関して、和佐には苦い記憶がある。16年に日本コカは、缶コーヒーを飲まない若い女性を狙って「ジョージア コールドブリュー」を発売。米国ニューヨークなどのコーヒー専門店から流行していたコールドブリュー(水出し)を量産品に導入した意欲作で、コクのあるすっきりした味わいが特徴だった。しかし出足こそ好調だったものの、思ったほどに売れ行きは伸びず、苦戦を強いられた。その開発を指揮したのが、和佐だった。

 「一言で言えば、時代を先取りしすぎました」と悔しさをにじませる。

 そしてコールドブリュー発売の翌年、彗星のように現れたのが、サントリー食品インターナショナルの「クラフトボス」だ。発売とともに快進撃を続け、コーヒー飲料の主役に躍り出た。両者の違いは明らかだった。コールドブリューが265mlのスリム缶で税別167円とプレミアム感を押し出したのに対し、クラフトボスは500mlの太めのペットを採用したにもかかわらず、価格は同等。コールドブリューの敗因は、分析するまでもない。サイズ感と価格のバランスの悪さ、すなわち味わいに対する適量感を見誤ったことにあった。「パズルのピースがうまくハマり切らなかった」と和佐も潔く認める。

 そこから日本コカの反撃が始まる。後発となったメーカーが採るべき手段は多くない。「先行者の長所を踏襲しつつ、エッジを立てるべきポイントを見定める」のが黄金パターンだ。エッジを立てるとは、「要は意味ある差異を打ち出すということです」と和佐は強調。それはどんな開発にも共通する、彼のブランド哲学でもある。

 「オフィスでのちびだら飲みに適した容量」や「ユニセックス感のデザイン」などは、迷うことなくライバルを追随。ブランド名をエンボス加工で浮き彫りにしたボトルも採り入れた。

 そのうえでエッジとして際立たせたのは、食品の本流である「味わい」だった。コールドブリューで培った水出しコーヒーの味に、それほど自信を持っていたのだ。ジャパン クラフトマン(日本の職人)というサブブランド名にも、日本発祥とされ、ニューヨークで花開いた抽出法である「水出し」によって「真摯においしさを追求する」という意味合いが込められていた。結果として、「日本独特の成熟したコーヒー文化を表現できた」と自負する。

 和佐は常々「マーケターは、サブジェクトの歴史を知り尽くさなければならない」と口にする。ジョージア製品の開発でも、日本のコーヒー文化の原点が「銭湯などで飲むコーヒー牛乳」と突き止め、ミルクの香りを重視してきた。そして、「ミルクを制する者が、コーヒー飲料を制する」との狙いから、今年3月発売の「ジョージア ラテニスタ」では、ミルクの後味を強調した。

3月末に発売した「ジョージア ラテニスタ」(左)。ミルク感にこだわった味わいが特徴で、CMには小松菜奈を起用(右)
3月末に発売した「ジョージア ラテニスタ」(左)。ミルク感にこだわった味わいが特徴で、CMには小松菜奈を起用(右)

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