コロナショックで進むDX

デジタル教材とAI(人工知能)の組み合わせにより、教育と学習が激変し始めた。これまでの集団授業から生徒別に最適化された授業への流れは止まりそうにない。当然、教員や学校の役割も変化を求められる。そして、クラウド上に記録された生徒の学習データは、企業のマーケティングに新たな可能性を開こうとしている。

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城南進学研究社はAI教材を導入。教育のDXを推進している
城南進学研究社はAI教材を導入。教育のDXを推進している

 大規模な休校、感染拡大を防ぐための外出自粛など、新型コロナウイルスの感染拡大以降、物理的な接触を減らすための措置が続いた。政府はこの状況下を社会全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速する好機とし、遅れていた分野のデジタル化を強く推進する。本特集では医療、流通、教育、アパレル、スポーツなどの分野のデジタル活用の先端動向を紹介する。

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、それまでと打って変わってDXが一気に進んだのが、学校や塾といった教育の現場だ。休校措置以降、一部はオンライン会議ツール「Zoom」などを使ったリモート授業に切り替えたものの、多くの学校では、自宅学習用の問題集やプリントなどを配布して対応した。今後、同じような状況になったとき、紙の教材を配布するだけでは学校としての役割を果たしたとは言えない。サービスとしての教育を継続するためにも、DXの普及が不可欠といえる。

 こうした教育のDXの起爆剤になるとして、文部科学省の「GIGAスクール構想」が期待を集めている。同構想は、「子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境の実現」を目標に掲げ、生徒1人に1台の端末を配布して学校に高速大容量の通信ネットワークを整備する計画。政府は、当初2019年12月に閣議決定した補正予算で、構想実現に向け2318億円を計上。23年度までに端末を配布する予定だった。ところが新型コロナ感染拡大を受けて、計画の前倒しを決定し、20年度補正予算を編成した。今後、同構想が軸となり教育のDXが推進される可能性が高い。

 教育のDXが進展することで、大きく2つの変化が生まれると予想される。1つは教員の役割の変化だ。これまでの学校や塾では、数十人の生徒を1つの部屋に集めて、教員が教壇に立ち、講義するスタイルが主流だった。今後は、生徒がデジタル教材を視聴し、その理解度をAI(人工知能)が分析し、個々の生徒に合った学習計画やカリキュラムを編成できるようになる。集団学習から個別学習へと移行する。それによって教員の役割、さらには学校そのものが従来のあり方から変化を迫られる。もう1つは、生徒の学習データの蓄積だ。多くの生徒がデジタル教材を使い、宿題やテストなどもオンラインで実施するようになれば、大量の学習データが蓄積される。このビッグデータを様々な分野で活用することで、新しい商品やサービスが生まれる可能性が広がる。

 教育のDXにいち早く取り組んできた企業はこれらの変化を先取りしている。これらの先進事例を通してDXがもたらす未来の教育を見てみよう。

講師はAI教材に勝てない

 大学受験対策の「城南予備校」などを運営してきた城南進学研究社は、講師による個別指導とAI教材「atama+」を用いた個別学習を提供する「城南予備校DUO」を18年12月に開校。20年3月には、従来の城南予備校の授業をDUOの個別学習に移行した。atama+は、生徒の理解度に応じて、AIが最適な教材をタブレット画面に表示するというもの。新型コロナウイルス感染が広がり始めてからは同教材をウェブでも提供し、サービスを継続してきた。

 同社取締役専務執行役員COOの千島克哉氏は、「生徒の学習状況を科学的に検証できるようになった」とAI教材の導入効果を説明する。同社では19年6~11月に、延べ74人の中高生を対象にAI教材を使った英語と数学の学習効果を調査した。その結果、全体の8割に相当する59人の定期テストの点数が向上した。さらに分かったことは、学習時間によって点数に大きな差が出ることだ。45日間にAI教材で1000分以上学習した生徒の35%が21点以上向上し、800分未満の生徒の41%は点数が下がった。

城南予備校DUOではAI教材「atama+」を活用した個別指導を実践している
城南予備校DUOではAI教材「atama+」を活用した個別指導を実践している
タブレットには個々の生徒の理解度に合わせた問題が表示される
タブレットには個々の生徒の理解度に合わせた問題が表示される

 「1週間あたり160分程度の授業で集中できるかどうかが成績を大きく左右することが分かった。これまでのように人間が教えていたら、こうした検証はできなかった」(千島氏)。当初はAI教材による学習に懐疑的だった生徒は少なくなかったという。しかし、利用者が成果を上げ始めたのを知り、多くの生徒が積極的に使い始めた。現在は、「受講する中高生の75%が利用している」(千島氏)。同社は、AI教材を使った個別指導を今後の主力事業に育てる考えだ。

 こうしたAI教材の成果を踏まえ、同社では講師の役割を見直した。「通常の単元を教えることでは、人はデジタルに勝てない。これからの講師は、生徒が自分の目標を達成できるようにモチベーションを高めるコーチングのスキルが重要になる」と千島氏は語る。同社のatama+を使用した個別指導では、生徒の学習の進捗や理解度をatama+のAIが分析。コーチ役の講師はその分析結果を自分のタブレットから確認し、生徒の弱点や学び方の特徴などを理解した上で、現状の課題やいつまでに何をやるかといった計画を生徒と一緒に考える。そして生徒がその計画を実行できるか見守り、適切なタイミングで助言や励ましを与える。

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