
店の混雑状況だけでなく、買い物客のマスク着用や消毒液使用の有無までデジタルで管理――。客数や客単価アップが目的だった小売店のデジタル化ツールが3密回避の手段として存在感を高めている。そのカギは安全の「見える化」だ。
新型コロナウイルスの感染拡大で3密回避のために物理的接触を減らすことが求められている中、遅れていた分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)が急速に進み始めた。政府も社会全体のDXを加速する好機とし、データ利活用などを進めていく方針を発表。このDXによって生活者の行動スタイルはどう変わり、企業側の打ち手はどう変わるのか。本特集では流通、医療、教育、アパレル、スポーツなど各分野のデジタル活用の先端動向を紹介。第1回は小売り業界のDXを取り上げる。
人の混雑、上から見るか? 横から見るか?――。
コロナ禍で3密回避のニーズが一気に高まっているなか、対応するデジタルサービスが相次いで登場している。
【第2回】 LINE参入でオンライン診療が日常に? 医療DXは「時短」がカギ
【第3回】 デジタル化で「先生」の役割が激変 AI個別指導、宿題はアプリ配信
【第4回】 人気ラーメン店“まんま通販”好調 外食LTV向上にECは不可欠
【第5回】 アパレルのデジタル化が加速 「変動価格」で挑む在庫超過解消
【第6回】 試合なきスポーツ界で「投げ銭」急浮上 デジタルで熱意を見える化
スマートフォンの全地球測位システム(GPS)による位置情報を基に、店舗の混雑情報を提供しているのが、unerry(ウネリー、東京・千代田)だ。同社は2020年5月、全国のスーパーやドラッグストアなど生活必需品を販売する約2万8000店の曜日・時間帯別混雑傾向情報を提供する無料サイト「お買物混雑マップ Powered by Beacon Bank(以下、お買物混雑マップ)」を公開した。
お買物混雑マップは直近4週間のうち最も混雑している1時間当たりの人数を基準に、過去8日間の混雑状況を時間帯ごとに「いつもより空(す)いている」「通常程度」「通常より混雑」の3つに分類して表示。自分のいる場所の周辺店舗やこれから行きたい店の混雑状況を簡単に知ることができる。「想像を超えた反響」(unerryの内山英俊CEO)で、初月で数百万PVを記録。リピーターは7割以上もいるという。スーパーから「自社のサイトに載せたい」という依頼もあったそうだ。
GPSのデータを使用する理由は「数多くの店舗を幅広くカバーするため」(内山CEO)。GPSデータだけだと施設内店舗近辺の混雑の推定精度が下がってしまうため、ビーコン(電波受発信機)やIoTセンサーのデータも組み合わせてアルゴリズムを開発することで精度を向上させているという。
お買物混雑マップによる収益化は考えていないとのことだが、「コロナ前と以後では人がデータを見て動くようになったのが大きな変化。混雑していない時間帯の来店を促すなど、デジタル広告で行動変容を起こす市場が大きくなるチャンス。本業の流通・小売業向け販促サービスにもつなげていきたい」(内山CEO)。紙のチラシが幅を利かせる業界で、混雑回避がデジタル広告などのDXを加速させる可能性があるというわけだ。
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